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「あら!幼なじみ、って…男の子だったの!」
二人を玄関で出迎えてくれた祖母の伊予(いよ)が、開口一番驚いたように言った。
それに被さるように、隣に立つ祖父・葛(かずら)が叫ぶ。
「オイコラ聞いとらんぞ!!!日夏お前まさかこいつと……!」
短く切った白髪頭、衣服を着ても目立つたくましい筋肉、太くて険しい眉――日夏と血が繋がっているとは思えない風貌だ。
早瀬は、わけがわからないながら、まずいことになったと顔を歪めた。
その横では日夏が目を白黒させている。
「えっ、何度も早瀬のこと話したじゃない!女の子だと思ってたの!?」
「だってほら、星が好きとか言うからそれはロマンチストな女の子なのねえって、おじいちゃんと」
「ええ〜っ!?」
日夏が変な顔をしていると、痺れを切らした様子の葛が、再び叫んだ。
「そんなこたどうでもいい!日夏、お前まさかこいつと……!」
先程と全く同じことを言っている。
初対面で『こいつ』呼ばわりされた早瀬だが、いろいろなばつの悪さに何も言えなかった。
すると、日夏が言いにくそうに口を開いた。
「ええと……じゃあ、あらためて紹介するね。このひとが早瀬。わたしの幼なじみで……その、恋人、でもあります」
照れた日夏に見とれかけて、そんな場合ではないと早瀬は姿勢を正す。
「はじめまして!早瀬と申します!日夏さんのことが好きです!よろしくお願いします!!!」
勢いよく頭を下げると、隣で日夏が「早瀬っ、その自己紹介、変だよ!」と慌てた。
「あらまあ、元気なお兄さん」
伊予はくすくすと笑っている。悪い印象は持たれなかったらしい。
問題の葛は、
「………日夏があんたを好いとるんならしかたない。歓迎してやろう」
ものすごく不本意そうに唸った。
秋吉に噛みついたと聞いたときから『帰れ!』と一蹴されることさえ覚悟していたから、それでも充分な反応だった。
女と思われていたなら尚更、と思ったが、拍子抜けするくらいだ。
おそらく、なんだかんだで日夏を信頼しているのだろう。それは嬉しいことだったし、本音を言えば助かった。
しかし。
「だがな、早瀬くんとやら。あんたには廊下で寝てもらうことになるぞ!」
「…え?」
低い声でいきなりそう言われ、早瀬は固まった。
「ちょっとおじいちゃん!何でそんないじわる、」
「意地悪じゃないわい!」
日夏に縋り付かれた葛は、憎々しげに早瀬を指差した。
「あんたを女だと思っとったせいで、部屋を日夏と一緒にしとったからじゃ!!!」
「廊下で寝ます!!!!」
早瀬は間髪入れずに叫んだ。
「えっ、ちょっと、早瀬…!」
日夏が困惑の表情を浮かべる。
おそらく日夏が次に言い出すだろうことは予想ができた。
「おじいちゃん、わたし気にならないから同じ部屋でもいいじゃない!お客さんを廊下で寝かせるなんて絶対だめでしょ!?わたしと早瀬は幼なじみなんだから慣れてるし」
(予想どおりだ……)
早瀬は内心ため息をつく。
日夏はそりゃあ気にならないだろう、さっきそう言っていたくらいだ。
でも俺はめちゃくちゃ気になるし、そもそもおじいさんが納得するわけがないじゃないか。――とはここでは言えない。
(だいたい慣れてるって何だよ…)
何に慣れているつもりなんだ、日夏は。俺には身に覚えがない。
「慣れとってたまるか!」
当然葛もそこを指摘した。
「しかし空き部屋は小春が使っとった部屋しかない。あとは廊下しか残っとらん」
「でもっ…!こんな寒いのに!」
「いえ!俺…僕は魔法でなんとかしますから!廊下をお借りします!」
三人で押し問答をしていると、伊予がポン、と手を打った。
「そうそう!あなた、あれがあったじゃないですか。ほら、秋吉さんが作った…」
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