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あの流星群の日を境に、日夏と早瀬の関係は元に戻っていた。
さらに、日夏に対する女の子たちの冷たい視線もかなり緩和された。友人たちに聞いたところによると、早瀬が何か言ったらしい。
どんな言い方でも、早瀬が日夏をかばえば逆効果になりそうなものなのに、一体何を言ったのか謎だ。
(……ってわたしのことはどうでもいいのよ!)
日夏はあらためて、卯浪と吉野のことを考える。
「吉野から見て、卯浪さんが最近変だなって思うこととかなかったの?」
もうすぐ、付き合い始めて四年目を迎えるふたりだ。互いの些細な変化にも気付くような仲なのではないだろうか。
「卯浪さんとはひと月近く会ってないからよくわからないの」
「えっ!?なんでそんなに?もっといつも会ってたよね?」
「休みが合わなくて。これくらい会わないことも割とあるの」
「仕事の後に会えたりは……?」
「非番の日以外は、夜も王宮から離れられないから……」
夜間に王族に何かあったときのために、医師や薬剤師は終業後も王宮から離れてはいけないことになっている。
「でも、部屋に人を呼ぶのは許可されてるじゃない!出かけなくても部屋で一緒に過ごすくらい、」
「卯浪さん、私の部屋には一度も来たことないの」
「えっ……なんで?」
「よくわからないけど『けじめ』だって言ってたわ」
「えっと、わたしもよくわかんないけど、卯浪さんがそう言うんなら、そう……なんだろうね……?」
早瀬なら意味がわかるのだろうか。早瀬もたまによくわからないことを言うし。
日夏が首を傾げていると、吉野が思い詰めたようにつぶやく。
「……もしかして、私のことが好きじゃないから、部屋に来たことないのかしら」
日夏は慌てた。
「ちょ、ちょっと吉野!不安になるのはわかるけど、吉野が卯浪さんの気持ちを疑うなんて、らしくなさすぎるよ!」
「うん……」
うつむいたまま辛うじて返事をする。
吉野の不安が日夏に伝染してきた。
ほんとに卯浪さんが浮気してたら……?
(ってわたしが暗くなってどうするの!今いちばん不安なのは吉野なんだから!)
「ほら、そんなこと言ってる間に着いたよっ!悩むのはいろいろ確かめてからにしよう」
ふたりは早瀬の家の前に立った。
***
秋津は、人がいないことを確認すると、麻袋を開けた。
日向に見られているとは気付かない様子だ。
麻袋の中から三匹の動物たちが出てくる。ウサギ、タヌキ、リスに見える。
(あれは……精霊だ。あいつ、月の民じゃなかったか?)
もちろん月の民にも精霊は見えるし、会話もできる。
だが、月の民が精霊たちと関わることはほとんどない。日向のようなパターンは例外だ。
さらに日向が観察していると、秋津は三匹に語りかけはじめた。
「ごめんね、君たちを完全には助けてあげられなくて。これじゃあ君たちの仲間を捨てていく人たちと変わらないのかもしれない。――でも、ここまで来ればあの人たちは探せないよ。君たちが痛みを我慢しつづける必要だけは、もうないから。ここまでしかできなくて、本当にごめんね」
三匹はそれでも感謝しているようだ。
彼らに見送られ、秋津は泣き顔で公園を後にする。
日向は三匹に近寄った。
「おい、お前ら、主人に捨てられたのか逃げてきたのかは知らねえが、西の町の外れにそういうやつらが集まって暮らしてる場所があるんだそうだ。行けるんなら行ってみたらいい」
気に入らないが、垂氷から聞いた情報だ。
それだけを告げると、日向は元のベンチに戻って昼寝の体勢を取る。
(普段どもってばっかりの奴が、やけにはっきりしゃべってやがったな。意外と骨のある野郎なのか?)
しかし、危ないことに首をつっこんでいるんじゃないだろうなと少し気にかかった。
さっきの三匹に尋ねようかとそちらを振り返ると、すでに彼らは西に向けて出発した後だった。
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