星月 | ナノ


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確かに大人の世界で『人脈』は必要不可欠なんだろう。
けれど、早瀬にとってそれは『人と人との繋がり』には、とても見えなかった。

ここに来る大人たちはひたすら自らの『利益』のために、招いている祖父は『権威』を示すために――そんな思惑が隠しきれない『茶番』に、早瀬は虫ずが走る思いだった。

頭ではわかっていても、嫌悪感をぬぐえない。


嫌悪感だけではなかった。
時には、傷つくことさえ、あった。

それは、『客人』が子どもたちを連れてきていた時だ。

皆、親からきつく言われているのだろう。固くなって、子どもらしくもない恭しい態度をとる。

そんなものが祖父だけでなく、自分にも向けられるのだ。


それは、自分に向けられた時には『よそよそしい態度』に映った。

親に言われて渋々といった様子で、こちらにも挨拶をする。使い慣れない敬語で。

同世代の子ども、ではなく『えらい人の孫』という目で自分を見ているのは明らかだった。

だからつまり、正確には『早瀬』を見ているわけではないのだ。


そんな風にぎこちなくよそ行きの挨拶をして、それを見た祖父が「よく教育しておられる」と満足げに笑って、そうしたら親が子どもを誉めて、子どもは喜ぶ。

そんな方程式のようなやり取りに、自分を巻き込まないでほしい。

祖父にだけ挨拶をすればいい。何で自分にまで。

完全に無視される方が、早瀬にはよほどましに思えた。


そんな早瀬を見て、母はいつも辛そうな顔をしていた。

それが早瀬にも辛かった。
だけど、「自分は何のためにここに立っているんだろう」という思いを、母親にも見抜けないほど隠すことなど、とてもできなかった。


――本当はただ、同じくらいの歳の子どもたちと、仲良くしてみたかった。

だけど、すぐに諦めた。
見られてもいないのに、仲良くなろうなんて思えない。

子ども連れの客人が来る時には必ず、片手に父からもらった本を携えていた。

お守りのつもりだったが、『子どもらしくない』と余計に敬遠されていただろう。本当は、読めもしない本だけれど。

むしろ、やけになって敬遠されることを望んでいたのかもしれなかった。




そんなある日、母が嬉しそうに早瀬に言った。

「親友の娘さんが遊びに来るのよ!早瀬と同い年なの」

母がこんなに楽しそうな表情をしているのを、早瀬は久しぶりに見た。


母の親友という人は既に亡くなっているらしい。

その夫が父の同僚で、これまで娘を妻の実家に預け、単身王都で働いていた。
だが、魔法学校の入学が近付き、娘を王都に呼び戻すことになったのだそうだ。


「前に会ったときは赤ちゃんだったの。早く会いたいわ!」

親友の忘れ形見との再会に、母はあからさまにうきうきしていた。

そんな母を見て、早瀬も思わず笑顔がこぼれたが、心の奥では「きっと同じだ」と思っていた。


他の『客人』たちと同じ。
早瀬を見ることはなくて、それなのに早瀬と関わろうとする。

父が『同僚』を招くことは初めてだったけれど、きっとその人だって父の『背景』が目当てなんだろう。

期待するな、早瀬は自分に言い聞かせた。いつもと同じように。




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