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振り返ると、自分と同じくらい息を切らした早瀬が、こちらに駆けてくる。
「っ!早、……」
日夏は思わず言葉に詰まる。
早瀬は日夏の元へ駆け寄ると、大きな息をひとつ吐いた。
「よかった…、図書館にもういなかったから、もう会えないかと思った…」
「何で…」
零すようにそう言った日夏を、早瀬の視線がとらえた。
「話が、したくて。日夏と、ちゃんと」
「…………」
真剣な表情で早瀬が言った言葉は、日夏が言おうとしていたこと、そのままで。
胸が、ぐっと締め付けられる。
そうやって、いつもみたいに。
今日もまた、来てくれた。
どうして、こんなにいつも……早瀬はわたしを甘やかすんだろう。
逃げていても、ぶつかろうと決めた時でさえも、先回りして、ぜんぶを拾い上げてくれる。
日夏は何も言えずに、ただ頷くだけだった。
そんな日夏を見て早瀬は小さく笑い、流星群の日と同じように、先に立って歩き出した。
向かう先もあの塔だ。
早瀬が声を発すると、あの日と同じ、見えない『道』が塔に繋がる。
早瀬が振り返り、日夏に手を差し出した。
「今日は流れ星は来ないけど。ここなら誰にも邪魔されないから」
「………」
日夏はおずおずと、早瀬の手を取る。
早瀬の手のあったかさは、あの日と変わらない。
わたしの気持ちだけが、あの日と違う。
――それでも早瀬は、わたしの手を離したりしないんだ。
そのことに、日夏は胸がいっぱいになる。
「……なんで泣くの?」
塔の上にたどり着き、立ち止まった早瀬が尋ねた。
言われて初めて、自分が泣いていると気付き、日夏はぶんぶんと首を振る。
また、誤解させてしまう。
早く伝えなきゃ。
それなのに胸が詰まって、うまく言葉が出てこなかった。
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