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日夏はゆっくりと顔を上げた。
今までのわたしたちには、『違う』ところなんてないんだと思っていた。
大切な幼なじみで、もちろん喧嘩はするけれど、いつも同じ方向を向いていて。
だから、初めての『違う』気持ちが、間違っているように感じてしまった。
そうじゃないと吉野が教えてくれてさえも、『違う』ことが辛くて怖い。そんな気持ちが消えなかった。
だけど、今、気付いた。
早瀬とわたしはずっと、『同じ』なんかじゃなかった。
同じものを見ていたって、同じ時間を過ごしていたって、心の中はきっと、全然違う。
それでもずっとずっと、信じ合って来られたのは、きっと、お互いがお互いの違いを、大切なものだと受け入れてきたからだ。
同じだから大切なんじゃなくて、相手が大切だから、違いさえも愛しく思えて、それを受け入れたかったから……だから、『同じ』だと思い込むほどに信じて来られたのだ。
だとしたら。
怖い、なんて言っている場合じゃない。
早瀬はきっと、どんな私だって受け入れてくれる。
応えられなくても、受け入れてくれる。
だったら私も、受け入れなくちゃ。
どんな答えを早瀬が出したとしても、受け入れなくちゃ。
……受け入れたい。
それがきっと、信じることで。
信じられたら、――早瀬も自分も信じられたら、怖くたって逃げる必要なんかないと、確かに思える。
今までしてきたように、すればいい。
知らなかった気持ちだから、『答え』が出る気持ちだから、わけがわからなくなってしまっていたけれど。
今まで何度も何度も繰り返してきたことと、同じだ。
気持ちをぶつけて、お互いを受け入れればいい。
その先の道は、きっと二人で見つけられる。そう信じられる。
「………秋津くんには、いつも元気をもらってばかりみたい。ありがとう」
日夏が顔を上げて笑うと、秋津は嬉しそうに首を振った。
「いいえ、僕は今まで日夏さんにもらったものを、返してるだけです」
***
秋津の言葉を聞いて、『信じる』方法が見えて――日夏は無性に、早瀬に会いたくて仕方がなかった。
閉館作業さえももどかしいくらいだ。
大急ぎで戸締まりを確認し、裏口の鍵を掛ける。
「早瀬は……もう家だよね?」
隣の観測所を見上げる。
今日は、早瀬がいる棟には明かりが点いていない。
日夏は、早瀬の家に向かって駆け出した。
心を決めたのなら、もう一日だって待ってはいられなかった。
いつかの流星群の日は、早瀬が来てくれた。
(今度はわたしが行かなくちゃ…!)
早瀬のことが好きなのは、わたしなんだから。
――しばらく走ると、息が上がり始めた。
最近、部屋か図書館に篭っていたから、運動不足だ。
一旦立ち止まり、少し息を整える。
再び駆け出そうとしたその瞬間、
「日夏っ……!」
何度も何度も聞いた、声がした。
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