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時間はその日の昼にさかのぼる。
日夏は自宅の居間でぼうっと頬杖をついていた。
この一週間、日向の契約魔法は何も進んでいない。
「好きな子…かあ……」
何度繰り返したかわからない言葉を、また呟く。
「だったら、あの言葉は…どういう意味なの……?」
早瀬が、わたしをずっと嫌いだったとは、思わない。
だから『幼なじみだと思ったことなんてない』――その言葉の意味は、そういうことじゃない、と思う。
だとしたら――
「……ないっ!絶対にないないっ!」
日夏は思いきり首を振った。
もしかして早瀬も自分と同じ気持ちなんじゃないか……なんて、一瞬でも思ってしまった自分が恥ずかしくなる。
あれだけ最低なことを言って、それでも期待するなんて馬鹿みたい。
今は、嫌われていたって不思議じゃないのに。
『幼なじみ』なんていう関係があるから、こんなややこしいことになってしまっているんじゃないだろうか。
……幼なじみじゃなかったら、そんなことまで考えてしまうなんて、本当に最低だ。
(だって……好きな子がいるのに、わたしを特別扱いなんて、しないでほしかった)
例えわたしと同じ気持ちじゃなくても、『特別な人』なんて、わたし以外にはいないんじゃないかと、自惚れてしまってた。
「もう…早瀬とふつうになんて、話せないよ……」
そんなのは嫌なのに、どんな形でも一緒にいたいと思っているのに――どうすれば、早瀬と一緒にいていい自分になれるのかわからない。
(幼なじみじゃなければ……じゃなくて、わたしが早瀬を好きにならなかったらよかった、のかな……)
自分の気持ちや誰かとの関係を否定するなんて、嫌なのに。
日夏が長いため息をついた瞬間、玄関のチャイムが鳴り響いた。
***
「日夏、もうお昼ごはん食べた?」
玄関に立っていたのは吉野だった。
「う…ううん、まだ。吉野、どうしたの?今日は卯浪さんと会うんじゃ…」
「卯浪さんとは夕方から会うことにしたの。…パン焼いてきたから、一緒にお昼しない?」
吉野は手に持っていた紙袋を見せて微笑んだ。
「ありがとうっ!昨日作り置きしてたスープあるからそれも一緒に食べよ。上がって!」
吉野の作るパンやお菓子はとてもおいしい。日夏は幾分気持ちが明るくなり、笑顔で吉野を招き入れた。
***
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