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「…っ、何であんなこと言った」
早瀬は苛立たしげに地面を蹴った。
最悪だ。
『好きだ』とも伝えられずに、怒りだけをぶつけた。
『幼なじみだと思ったことなんてない』なんて――日夏にきっと誤解をさせた。
だけど、日夏のあんな態度に、気持ちを抑えていられるわけがなかった。
どうして何度違うと伝えても『離れていく』なんて言うんだ。
『関係ない』とか『ただの幼なじみ』とか――離れていきたいのは日夏の方に見える。
何でだ。
何で急にあんな風に。
だけどとにかく、拒絶されたのだということだけは、わかった。
日夏が俺の知らない理由で泣いていて、それを俺が知ることを望んでいない。
それが原因であんな態度だったのかさえも、知りようがない。
何年も前から、日夏に伝えたいのは『好きだ』というその一言だけなのに――どうしてこんなにも、ごちゃごちゃに絡まってしまうんだろうか。
俺は臆病すぎて、日夏は勝手すぎる。
「日夏……」
勝手で、わけがわからなくて、怒っているはずなのに――気付けば彼女の名前を呼んでいる。
今日もしかして自分は、『幼なじみ』という立ち位置まで、失いかけているのかもしれない。
それでもやっぱり、早瀬は何も手放すことはできずに、ただ立ち尽くしていたのだった。
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