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早瀬は、なんとなくまっすぐ帰りたくなくて、無意味に遠回りしながら歩いていた。
昼間の気温に合わせて薄着をしていると、この時間は少し冷える。
日が暮れるのが早くなってきたなと空を仰ぐと、グラデーションの中にすでに一番星が輝いていた。
早瀬はそれを見上げたまま立ち止まる。
「……なんか長い一日だったな」
今までは余計な詮索をされたくなくて、『誰とも付き合う気はない』などというもっともらしい理由で断っていた。
だけど、日夏に気持ちを伝えたいと思っている今、それはもうできなかった。
相手に失礼なのはもちろん、日夏にだって、誠意がないような気がしたからだ。
(それにしても……我ながらよくあんなにあっさり言えたな)
『好きな子がいる』と、誰かに直接口にしたことはなかった。周りにはばれていたし、本人には言えなかったからだ。
この気持ちは、だから、ためらうようなものでも後ろめたいものでもない。
(日夏に言いたいのに――なんでいつも言えないんだ、俺)
今まで日夏が自分を見てくれていたのとは全く違う目で、自分が日夏を見ていたのだと知られたら……日夏はどんな顔をするんだろうか。
ためらいがあるとしたら、後ろめたいとしたら――ずっとそこだけだった。
『好きだ』と誰かに口にしまったせいか、早瀬は無性に日夏に会いたいと思う。
今日も日夏に言えないとしても、ただ会いたかった。
こんな風に甘えてばかりいるから、いつまでも変われないんだとわかっていても、気付けば日夏の家の前を通る道に、足が向いていた。
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(9/12)