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(そっか……早瀬に特別な人がいたら、私の『特別』は早瀬でも、早瀬の『特別』は、わたしじゃないんだ。この『特別』は、早瀬にもわたしにも一人しかいないんだ。だから……)
「わたしは、早瀬のことが好き、だったんだ」
口に出すと、ますます涙が溢れてくる。
みっともなく他人の告白をのぞき見して、失恋してから自分の気持ちを自覚するって――なんてばかみたいなんだろう。
早瀬が離れていく日をこわがっていたこと。
月華さんの存在があんなに気になったこと。
早瀬に近づくと変な態度になってしまったのだって、――黒星の屋敷で名前を呼んだのだって、全部。
早瀬が好きで、他とは違う『特別』で。
早瀬を、ひとりじめしたいという気持ちで。
――そしてやっぱりこの気持ちは、早瀬の『好き』とは、別のものだった。
それを知るのが怖くて、気付かないようにしていたのかもしれない。
『日夏の代わりはいない』と早瀬に言われたけれど……この気持ちをもしぶつけたなら、わたしにだって今の少女と――他のたくさんの女の子たちと同じ答えが、待っているんだ。
わたしの欲しい早瀬の『特別』は、早瀬の好きな子だけが手に入れることができる。
その子に早瀬は、わたしの知らない顔を見せて、わたしには言わないことを言うんだ。――それはきっと全部、わたしが欲しくてしかたがないもの。
それを、誰かが。
わたしじゃない誰かが。
(これから、早瀬にどんなふうに接していけばいいの…)
この気持ちを表に出してしまえば、『幼なじみ』という今の大切な関係まで、なくしてしまうかもしれない。
だけど、知らなかった頃と同じになんてできない。――自分の気持ちも、早瀬の気持ちも。
それなら、隠すしかない。
隠していれば、なくさない。
早瀬に隠しごとなんて、したくないのに。
あの流星群の日に、早瀬はずっと離れていったりしないんだと、確信したのに。
恋をしたら、こんなにも、信じてたものがぐらぐらして頼りなくなってしまうんだ。
だって、早瀬が好きな子のものになってしまったら、早瀬は離れていってしまう。早瀬は今までと同じつもりでも、わたしにとっては――。
(知りたくなかったなんて……卑怯だ、わたしは)
傷つかないために気持ちをごまかしていて、それでいてここに来たのは、自分なのに。
早瀬が『誰とも付き合う気はない』と言ってくれるのを――誰のものにもならないことを、確認したかったのだろうか。
だとしたら、やっぱり卑怯だ。
(……日が暮れちゃう。帰らないと)
日夏は、乱暴に涙をぬぐい、ゆるゆると立ち上がった。
もう、まっすぐ家に帰って、何も考えず寝てしまいたかった。
整理がつかない感情たちから早く逃げたい、そう思っていた。
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(8/12)