星月 | ナノ


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「聞いた!?抜けがけしようとしてる子がいるんだって!」

「今日の夜、早瀬さんを、家の近くにある公園に呼び出したって話でしょ!?どうするのよ」

「どうしようもないわよ。もう早瀬さん呼び出しちゃったんだから、私たちが下手に止めたりしたら早瀬さんからの印象が悪いじゃない!」




図書館でひそひそと話す少女たちの声が、突如日夏の耳に入ってきた。

『早瀬』という聞き慣れた響きが、日夏を立ち止まらせたのだ。


思わず声の主を伺うと、『早瀬を見守る会』の中心人物・風花とその友人たちだ。

三人でかたまって座り、ひそひそ話に熱中しているようだが、いかんせん『ひそひそ話』のボリュームは図書館にしては大きめだった。



(公園に…呼び出し…)

一体どこでそんなことまで、と『見守る会』の情報網に若干背筋が寒くなりながら、日夏はつい聞き耳をたててしまっていた。



「心配しなくたって、早瀬さんはいつも断ってるじゃない!決まり文句でしょ?『今は誰とも付き合う気ないんだ』って。去年のあの子もそうだったじゃない」

「そうだけど…!抜けがけって事実が許せないわよ。『会』のメンバーなら罰則を課せるのに!」

「こういう子が出てくると、抜けがけしても大丈夫なのかって思うやつが増えてきちゃうのよね、困るわ」

「私たちが耐えてるっていうのにね」



罰則まであるのか…と、日夏は驚愕する。自分が思っていた以上に、早瀬はもてているようだ。


(それにしても『誰とも付き合う気ない』って断ってたんだ…なんて当たり障りのない……)


早瀬の本心ではないんだろうなと感じる。

だけど実際に早瀬がどんな女の子たちの告白にも心を動かされなかったのは事実だ。


(女の子が嫌いってわけでもないだろうし……だいたいそうだったらわたしとこんなに長く一緒にいないわよね)


日夏がなんとなくその場を離れることができずにいると、彼女たちは告白を阻止するかどうか本格的に話し合いを始めた。


早瀬本人にばれないように阻止する方法がいくつか提案されたが、「早瀬さんを待ちぼうけさせるわけにはいかない」「もしばれた時、早瀬さんは怒ると怖い」という意見が出て、結局立ち消えになった。

早瀬が怒ると怖いなんて、日夏でさえもこの間の一件があるまで知らなかったのに、どうやって彼女たちは知ったのか謎だった。


とにかく、『見守る会』メンバーには『夕方以降、公園に近寄ることを禁止する』という指示を出すことになったらしい。



連絡網でもあるのだろうかと呆れながら、日夏はやっとその場から離れた。


だけど――


(どうしよ、待ち合わせの時間も場所も思いっきり暗記しちゃったじゃない…)



***




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