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「早瀬ー、プレゼントをやろう!」
デスクワーク中に、ぽんと肩を叩かれた早瀬は、怪訝な顔で振り返った。
にやにやしながら先輩が立っている。
「かわいい子だったぜ〜」
そう言って手渡されたのは白い封筒だった。『早瀬さんへ』と書かれている。
裏返すと、全く覚えのない名前。
「ったく、お前ほんとうらやましいよなあ!」
先輩は早瀬をバシバシと叩きながら大きい声で言った。
そのせいで周りの男たちが集まってきて、「またラブレターか!生意気だな早瀬!」「何人目だよお前!」「どうなってんだよほんと!」などと騒がれる。
ため息をついて封筒をしまおうとすると、「読んでやらないのか!?ひっでえ!」とどやされた。
「………あんたたちのいないとこで読んでくるんですよ」
とりあえずこの状態から逃れたくて、早瀬は席を立つ。
人気のない廊下に出て、封筒を開ける。
手紙には、早瀬のことが好きだということと、三日後に直接話したいので公園に来てほしいということが書かれていた。
「今回も『誰とも付き合う気はない』、か?」
ふいに背後から話しかけられ、びくりと振り返ると、卯浪が立っていた。
「意外と趣味悪いな、のぞき見しないでくださいよ」
早瀬がじとりとした視線を向けると、卯浪は肩をすくめた。
「実は先輩に『のぞき見してこい』と言われたんだ」
「……断ってくださいよ」
「無理矢理送り出されたから、どうせならのぞいとくかと」
早瀬は苦笑する。
「……日夏に気持ちを伝えるって決めた以上、『誰とも付き合う気はない』なんて嘘をつくわけにはいかないでしょうね」
話を戻すと、卯浪は少し意外そうな顔をした。
「日夏に告白するって決めてからそれがどれだけ難しいか改めて実感してるんですよ。だから、自分に対してそうやって勇気を出してくれた人に、誠意のない返事をしちゃいけないんだって思って」
「……そんなに難題なのか」
『日夏に告白する』についての意見らしい。卯浪は気の毒そうな目をしている。
「やめてくださいよその目!どうせ俺はヘタレだよ!」
「ヘタレとは言ってないだろう…」
早瀬は今さらながら、自分に気持ちを伝えてくれた女の子たちの勇気と恐怖を思い知ったのだった。
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