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流星群の日がやってきた。
日夏は閉館後の図書館に残り、仕事をしていた。
日向も手伝うと言って聞かなかったが、なんとなく一人になりたくて、適当に用事を頼んで先に帰ってもらった。
日夏はまだ、日向に言われたことの答えにたどり着けていなかったのだ。
「今日みたいな日に、わたし何やってるんだろうなあ……」
あれから早瀬とは会っていない。
何度が道で見かけたが、いつもと変わらぬ様子で仲間たちと笑っていた。
頭を冷やす、って冷静になって考えてみるってことだろうか?
それっていつまでだろう?
自分からつっぱねたくせに、早瀬が声をかけてくるのを待っていることに、日夏は気付いた。
都合がよすぎる、と自分でも思う。
冷静にわたしとのことを考えて、やっぱりわたしは必要ないっていう結論になったら……?
もう今までみたいな関係には戻れない、ということだ。
自分で『近づかないで』って言ったのに、そのとおりになると考えて寂しくなるなんておかしい。
でも、どうして寂しいんだろう?
(それは……ただわたしが、早瀬と離れたくないから?……なんで離れたくないのに、自分から離れようとしたの?)
その先を考えると、自分のずるさを自覚しないわけにはいかなかった。
早瀬は頭がいいからきっとこんなことすぐ気付く。
幻滅してほんとに離れていってしまうかもしれない。
早瀬とちゃんと話したい。
でも怖い。
自分で作ってしまった壁がすごく高くなってしまっていたみたいだった。
(だめだ、今日は仕事にならない!おとなしく帰ろう)
日夏は重たい気持ちのまま図書館を出る。
裏口の鍵をしめて歩きだそうとすると、名前を呼ぶ、声がした。
「日夏!」
声のした方に視線を向けると、早瀬が息を切らして走ってくるところだった。
「よかった!やっぱりここにいた!探してたんだ」
早瀬は汗をぬぐいながら笑顔で言う。
「早瀬……なんで」
「星見に行こうと思って。みんなには言ってないけど、よく見える場所があるんだ。そこなら誰も来ないし、変な心配することもないだろ?」
何もなかったかのような態度に、日夏はほっとしていいのか不安になるべきなのかわからず、戸惑う。
「……」
「あっ!もしかして誰かと約束してた!?」
「……してない」
「よかった!じゃあ行こう!」
「……うん」
歩きだす早瀬の後ろをついていきながら、日夏は少しだけ泣きそうな気持ちになっていた。
なんで早瀬はいつも、うそみたいなタイミングで、わたしの気持ちを楽にしてくれるんだろう。
小さいとき、泣きそうになったらいつも、早瀬がそばに来てくれたみたいに。
あのころからずっと、変わらない。
(なのにわたしは、何も返していない……)
早瀬はだんだん人気のない方へ進んでいく。
この先は、森しかないはずだが。
「よく見える場所って、どこにあるの?」
日夏は気になって尋ねる。
「あの塔のてっぺんだよ」
「え……」
早瀬は、少し先にある建物を指差した。
森の入口付近に、遠い昔につくられた高い塔がある。
上の階へ上がる階段は壊れているし、何のためにつくられたかも不明の、遺跡のような建物だ。
もう調査も行われておらず、人はまず近寄らない。
とは言え。
「どうやって、てっぺんまで行くの?」
「俺には、これがあるだろ?」
早瀬は、自分の口もとを指差して、いたずらっぽく笑った。
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