星月 | ナノ


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今はまだきっと、手を伸ばせば、触れられる。

受け入れてもらえるかは別として、手は、届くはずだ。


だが、今のまま立ち竦んでいれば、もしかしたら、手も届かないところへ日夏が行ってしまうかもしれないのだ。



家族同然の、幼なじみ。

だけど家族ではない。
ただの、幼なじみだ。

この関係をこんなに心もとなく感じたのは初めてだった。



距離を縮めるか踏み止まるか。

今までその選択肢しか見えていなかったから、何もなくても自然に距離が広がっていくこともあると、気付かなかった。



例えば、日夏にとっての距離は変わっていなくても、早瀬から見れば果てしなく距離ができることだってありえる。

日夏に、早瀬以外の恋人ができたときだ。

日夏は、それでも変わらず早瀬を『大切な幼なじみ』と言ってくれるだろう。

だけど、そうなってしまえば、早瀬が欲しい日夏は、永遠に手に入らない。
距離どころか、それはもう、壊せない壁になる。



自分の何が日夏を挙動不振にさせているのかはわからないが、こんな風にわかりやすく態度に出してくれてよかった、と早瀬は思う。

そうでなければ、距離が広がる可能性に、気付かないままだった。


――だけど、だからと言って、これから自分は、どう動けばいい?


日夏が欲しい、だけど嫌われるのが怖い。

けれど、何もしなくたって、日夏が離れていってしまうかもしれない。


何かを覚悟するか、何かを諦めるか、だとはわかっている。

だけどどちらもできずにいる。



そんな風に頼りない状態だから、黒星のような奴の存在に、必要以上に不安になっているのだ。


以前自問したことが蘇る。

『こんな風に八方塞がりな自分で、日夏に何かあったときに守れるのだろうか』


たぶん、守れる自信がないから、危険の可能性に、過剰に反応している。




しかし、そんな情けない自分に垂氷が気付いていたのは意外だった。

もちろん彼は鋭いところがあるが、早瀬は早瀬で、こんな心情を周りに悟らせていない自信はあったのだが。



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(12/15)

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