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今はまだきっと、手を伸ばせば、触れられる。
受け入れてもらえるかは別として、手は、届くはずだ。
だが、今のまま立ち竦んでいれば、もしかしたら、手も届かないところへ日夏が行ってしまうかもしれないのだ。
家族同然の、幼なじみ。
だけど家族ではない。
ただの、幼なじみだ。
この関係をこんなに心もとなく感じたのは初めてだった。
距離を縮めるか踏み止まるか。
今までその選択肢しか見えていなかったから、何もなくても自然に距離が広がっていくこともあると、気付かなかった。
例えば、日夏にとっての距離は変わっていなくても、早瀬から見れば果てしなく距離ができることだってありえる。
日夏に、早瀬以外の恋人ができたときだ。
日夏は、それでも変わらず早瀬を『大切な幼なじみ』と言ってくれるだろう。
だけど、そうなってしまえば、早瀬が欲しい日夏は、永遠に手に入らない。
距離どころか、それはもう、壊せない壁になる。
自分の何が日夏を挙動不振にさせているのかはわからないが、こんな風にわかりやすく態度に出してくれてよかった、と早瀬は思う。
そうでなければ、距離が広がる可能性に、気付かないままだった。
――だけど、だからと言って、これから自分は、どう動けばいい?
日夏が欲しい、だけど嫌われるのが怖い。
けれど、何もしなくたって、日夏が離れていってしまうかもしれない。
何かを覚悟するか、何かを諦めるか、だとはわかっている。
だけどどちらもできずにいる。
そんな風に頼りない状態だから、黒星のような奴の存在に、必要以上に不安になっているのだ。
以前自問したことが蘇る。
『こんな風に八方塞がりな自分で、日夏に何かあったときに守れるのだろうか』
たぶん、守れる自信がないから、危険の可能性に、過剰に反応している。
しかし、そんな情けない自分に垂氷が気付いていたのは意外だった。
もちろん彼は鋭いところがあるが、早瀬は早瀬で、こんな心情を周りに悟らせていない自信はあったのだが。
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