星月 | ナノ


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日向が自分に触れるか触れないかという刹那、黒星はふっと笑った。


そして、人差し指を、日向に向けた。

だけだったのに。



――日向が、突然床に倒れ込んだ。



何が起こったのか、日夏は理解できない。

固く目を閉じたままうつぶせになっている日向に、駆け寄る。

「クロ!クロ!!!!」

揺すって声をかけても、日向は目を開かない。


二人を見下ろしながら、黒星がにこりと笑った。

「大丈夫。死んでないから」


「あんた、何で……」

黒星は月の民だったはずだ。
日向からはそう聞いている。

なのに今、この男が人差し指を日向にむけた瞬間、日向は倒れてしまった。



黒星は、日夏の言わんとするところを理解したようだ。

「『秋津の友達』だもんね。月の民かと思ってた?残念、俺は魔法が使えま〜す」

いたずらが成功した子どものように、楽しそうに言う。

「母親が月の民だったんだ。魔法は発現してたんだけど月の民が通う学校に入れられた。だから精霊とも契約してないよ」

秋津も、驚いているようだ。
知らなかったらしい。


黒星は、日夏の目の前にしゃがみこんだ。

日向を一瞥する。

「その犬、気絶してるみたいでしょ?たぶん、その方がましだよ。今、こいつの体は全く動かせない状態だけど、耳だけは聞こえてるから」


「……っ!」

日夏は改めて日向を見た。
気絶しているようにしか見えない。

だけど、本当に耳が聞こえているのだとしたら、どれほど悔しい思いをしているだろうか。


黒星は、おどけた表情で日夏にも人差し指を向ける。

「これが俺の使える唯一の魔法。精霊を無力化できる。そして俺の思い通りの状態にできる」


そして、そのまま日夏の腕を掴む。

秋津を縛ったのと同じロープを取り出し、いとも簡単に彼女の動きを封じた。


いくら腕力がないとはいえ、女の力では抵抗することができなかった。

「っ!離して!」

日夏の叫びは無視される。


身動きのとれない日夏と秋津、そしてうつぶせのままの日向を満足そうに眺め、黒星は両手を広げて微笑んだ。

「さ、これで準備は整った。楽しいこと始めよっか、おねーさん」


to be continued...





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