▼
日向が自分に触れるか触れないかという刹那、黒星はふっと笑った。
そして、人差し指を、日向に向けた。
だけだったのに。
――日向が、突然床に倒れ込んだ。
何が起こったのか、日夏は理解できない。
固く目を閉じたままうつぶせになっている日向に、駆け寄る。
「クロ!クロ!!!!」
揺すって声をかけても、日向は目を開かない。
二人を見下ろしながら、黒星がにこりと笑った。
「大丈夫。死んでないから」
「あんた、何で……」
黒星は月の民だったはずだ。
日向からはそう聞いている。
なのに今、この男が人差し指を日向にむけた瞬間、日向は倒れてしまった。
黒星は、日夏の言わんとするところを理解したようだ。
「『秋津の友達』だもんね。月の民かと思ってた?残念、俺は魔法が使えま〜す」
いたずらが成功した子どものように、楽しそうに言う。
「母親が月の民だったんだ。魔法は発現してたんだけど月の民が通う学校に入れられた。だから精霊とも契約してないよ」
秋津も、驚いているようだ。
知らなかったらしい。
黒星は、日夏の目の前にしゃがみこんだ。
日向を一瞥する。
「その犬、気絶してるみたいでしょ?たぶん、その方がましだよ。今、こいつの体は全く動かせない状態だけど、耳だけは聞こえてるから」
「……っ!」
日夏は改めて日向を見た。
気絶しているようにしか見えない。
だけど、本当に耳が聞こえているのだとしたら、どれほど悔しい思いをしているだろうか。
黒星は、おどけた表情で日夏にも人差し指を向ける。
「これが俺の使える唯一の魔法。精霊を無力化できる。そして俺の思い通りの状態にできる」
そして、そのまま日夏の腕を掴む。
秋津を縛ったのと同じロープを取り出し、いとも簡単に彼女の動きを封じた。
いくら腕力がないとはいえ、女の力では抵抗することができなかった。
「っ!離して!」
日夏の叫びは無視される。
身動きのとれない日夏と秋津、そしてうつぶせのままの日向を満足そうに眺め、黒星は両手を広げて微笑んだ。
「さ、これで準備は整った。楽しいこと始めよっか、おねーさん」
to be continued...
prev / next
(15/15)