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「い、たっ……駆くん、待って! 私、一人で帰れるからっ……具合悪いんでしょう!?」
強引に引っ張って歩く駆くんの速度についていけず、小走りになり足がもつれる。
転びそうになる寸前でようやくピタリと足が止まり彼がこちらを振り返った。
「吹っ切れたんじゃなかったのかよ」
「え? 何のこと……」
「兄貴のことに決まってんだろ。引きずってねーって言ってたのは嘘かよ」
だから、何のことだと尋ねているのに。駆くんは聞く耳を持とうとしない。
思わずムッとして私まで強い口調になってしまう。
「どうして駆くんに怒られなきゃならないの。私、何も悪いことしてないじゃない。それに嘘なっ……、……んうっ!?」
嘘なんてついてない―――そう言おうとしたが、かなわなかった。
駆くんの手が頬を包み、唇が私の口を塞いでいたのだ。
「ん……、っ!」
手首を掴んで引き離そうとしても、その強い力には微塵も抗うことができない。
唇を開けば強引にそれを抉じ開けて舌が入り込んでくる。
「っ、ふっ……ぅっ、ん、ん……!」
ようやく解放された時には息苦しさに瞳が潤み顔が火照っていた。
「はぁっ……、はぁ……」
「……は……」
なんで駆くんが泣きそうな顔をするの?
「駆くん、なんで……」
悲しいのか悔しいのか、言葉にならない感情が入り混じり涙が溢れてくる。
「チッ……ホント何やってんだ、俺……。泣くなよ、悪かったって」
駆くんは戸惑いながら、くしゃっと後ろ髪を掴んで掻く。
「謝るくらいならどうしてこんなことするの」
「さぁな。熱でもあんのかな、俺」
行くぞ、そう呟いて私の手を引き再び歩き出す。
チリチリと焼けるような痛みがなぜか胸の奥に残っていた。
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