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噂の騒動はすぐに収束に向かった。
駆くんに助けられる形で私は厳重注意で済んでしまったが、当の駆くんは一週間の自宅謹慎という処分が下った。
校長に何度も頭を下げ、退学が免れたのは唯一の救いだけど……謝罪もお礼もまだちゃんとできていない。
どうしても様子が気になって、私は夜にこっそりと駆くんのお宅を訪ねてしまった。
「……駆くん、起きてる?」
インターホンを鳴らしマイクに向かって尋ねる。
ものの数秒で出てきた駆くんはちょっと怒ったような表情で私の腕を引っ張り、中に招き入れるなりすぐさまドアを閉めた。
「おまっ、アホか! 何のこのこ来てんだよ!? こんなとこまた誰かに見られでもしたら今度はアンタまで……」
「わかってる、ごめんなさい。それでも駆くんに謝りたかったの。本当は私が……教師が生徒を守るべきなのに、あんな……」
「チッ……また生徒かよ」
「え?」
「つーかアンタは何もしてねーだろ。俺が無理矢理したのは事実だし、守られる義理なんてないんじゃね?」
どこか冷たい態度にまたズキンと胸が痛む。
何でかわからないけど急に泣きたくなって俯くと、駆くんが慌てたように言葉を付け足す。
「あー……その、別に俺は怒ってるわけじゃねーんだよ……。軽率だった自分が腹立たしいっつーか、今もアンタにそんな顔させてる俺、何やってんだって感じで……」
「?」
語尾を濁すように駆くんの声がどんどん小さくなっていってよく聞き取れない。
じっと見つめると、急に駆くんが頬を赤らめて目を逸らした。
「ッ、だから! 昨日は兄貴に嫉妬してつい勢いでキスしちまったんだよ。普段の俺ならもっと上手くやれるのに、余裕がなくて馬鹿みてぇに暴走して、挙句好きな女泣かすとか全然カッコつかねーし最低だろ」
物言いはとても乱暴だけど。つまりそれは、もしかして……
「駆くん、私のこと……好きなの?」
「……好きだよ。すげー、好き」
握りこぶしを口元に当て恥じらう素振りを見せながらも、彼はハッキリと即答する。
「いつから?」
「アンタがまだ兄貴のモンだった頃から」
「……ずっと?」
「そう、ずっと。けど言えねーだろ。まさかうちの学校に赴任してくるわ、担任になるわ、兄貴とイチャついてるわでいっつもタイミング悪すぎんだよ」
「ちょ、ちょっと待って……! 私がいつお兄さんとイチャイチャしたの」
「してただろ、昨夜。手ぇ握ったりして」
「!」
駆くんが急に怒り出したこと、キスをしたこと、その直後の泣きそうな顔……それらの理由の全てが一瞬にして繋がったような気がした。
何だ、そっか……私が何か駆くんに嫌われるようなことをしてしまったのかと思っていたけど……そうじゃなくてホッとした。
ん……?
ホッとしたって、なんだろう―――?
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