歪な傍観者
「ねぇ瑠璃、僕の目の前で僕以外の男に突っ込まれるってどんな気分?」
四つん這いの姿勢で目隠しをされ、後ろから図太い肉棒に貫かれている私のすぐ傍らで、それをただ傍観する夫の冷ややかな声が静かに届いた。
「はぁっ、うぐ……ぁぁっ……ん、はぁっ……!」
「ああ、そう。僕のことなんて見えてないから全然気にならないって? 確かに、こーんなにメチャクチャにされてもはしたなく涎垂らしちゃって、さっきから悦んでるようにしか見えないけど」
初めは否定していた。
知らない男性を受け入れることに、拒絶も、絶望もしていた。
だけど夫は、涙を流して許しを乞う妻をせせら笑ったのだ。
これまで築き上げてきた夫婦関係も、信頼も、愛情も、一瞬にして壊されてしまったのだと思った。
「瑠璃がこんなにも淫らで卑しい妻だったなんて知らなかったよ。もっと早くにこうしてあげていればよかったかな。長い間、ずーっと待ち望んでたんじゃないの? こんな風に誰かに犯されるの想像してオナニーしてたんだよね? あはは……本当、最低で最高の妻だよ。瑠璃は」
まるで私の知らない夫がそこにいるみたいで吐き気すら覚える。
彼が勃起不全であることは百も承知での結婚だった。
だから私は、それに対して不満を持ったことなんてただの一度だってない。
愛の形は様々で、私たち夫婦の在り方がそうだと言うならば、誰にもそれを邪魔することなんてできるはずがない。
私は彼という人間を愛しているのだと胸を張って言える。
妻として、自分のすべてを夫に捧げてきたつもりだった。
そんな私が一つだけ過ちを犯してしまったのだとしたら、今日の昼のことだ。
夫への不満はなくとも、その心のバランスを保つためには自身の欲求をどこかで満たす必要があり、そのために慰めることは時々していた。
それを不覚にも夫に見られてしまったのだ。
体調不良で仕事を早くに切り上げたという夫は、彼の帰りに気付かず夫婦のベッドの上で静かに自慰に耽っていた私の一部始終をまじまじと眺めていた。
ようやく私がその気配に気付いたのは、事の全てが終わったあとだった。
「んっ……はぐっ、うぅ……! はぁっ、あぁっ……」
失態を悔いる間にも、膣の最深部まで到達する程に膨張したペニスは無遠慮に突き上げ快楽を貪っていた。
男が誰なのかは知らない。
無言で家を出て行った夫が、帰ってきて突然この人を連れ込んだ。
真面目な夫とは真逆の強面な風貌と日に焼けた逞しい体つきを備えた男は、夫の指示に従ってただ黙々と私を犯し続ける。
「こうやって目の前で妻を寝取られるのも意外と悪くないかもしれないなぁ。あは、瑠璃のせいで僕までアブない事に目覚めちゃったのかもしれないね」
嬉しそうに話す夫の声はちっとも笑っていない。
その不気味さに思わず身震いしそうになる。
「っ、もう……許……して……っ、ぅ、はぁッ……ぁぁんっ、あ……!」
「許すも何も、別に僕、怒ってなんかないんだけどな。瑠璃が欲求不満なのは僕の不能が一番の原因なわけで、いけないことだなんて思わないよ? むしろ今まで気付いてやれなくて申し訳ないと思ってるくらいでね」
ズプッズプッ…グチュッグチュッ…ズチュッ
「っ、はぁっ……ぁ、ふっ、あぁっ」
「これは僕から瑠璃へのプレゼントでもあり、償いでもあるんだ。だからもっと嬉しそうな顔してよ、瑠璃。これでもう一人寂しく自分を慰める必要もないんだよ。これからは瑠璃が望むままに、たくさん気持ち良いことしてあげる。僕が直接与えることはできないけど、これも僕の……僕たちの、愛の形でしょ?」
「そん、な……っ、んッ……!」
「遠慮しないで思う存分感じていいんだよ。他の男咥え込んで喘いでる瑠璃も、僕は愛せるから……ね?」
こんな歪んだ愛の形、知らない。認めたくない。
なのに夫の甘い囁きに惑わされそうな自分がいて、悔しさに涙が溢れそうになる。
「ほら、瑠璃もちゃんとお尻を突き出して、もっと奥まで突いてくださいってお願いしなきゃ」
「こ、これ以上はっ……入ら、なっ……あぁッ」
グチュッグチュッ…パンパンッ…ズチュッズチュッ
「ねえ、言ってよ、瑠璃。実は僕も今興奮してるんだ。こんな感覚久しぶりだよ」
「っ……!」
視界を遮られた今、彼の姿は見えないけれど、少しばかり期待してしまう。
荒治療かもしれない……でも、もし私が夫への刺激の一部になれるならば……。
「ほら、言って。上手におねだりしてごらん」
「……っ、もっと……奥まで、突いて……ください……」
「もう一度。今度はきちんと、大きな声で言えるね? 瑠璃」
「も、もっと……! もっと奥まで突いてくださいっ……、お願い……奥、突いてぇっ……!」
この上ない羞恥に紅潮し悲鳴にも似た声で懇願すると、男は強く腰を掴み、浅く引き抜いた肉棒をズンと深く突き挿した。
男は絶え間なく激しいピストンを繰り返し、執拗に膣壁を抉り続ける。
ズチュッズチュッ…グプッ…ズプッズプッズチュッズチュッ
「あぁっ、あんっ、はぁっ……! あぅっ、はっ……う、あぁっ、ぁん!」
「あはは……凄いなぁ、ぐちゃぐちゃ言ってる。瑠璃のお汁が白く泡吹いてるみたいでいやらしいよ。もうすぐ垂れてきちゃいそうだね?」
「んっ……あぁ、やぁっ、み、見ないでっ……あぁんっ!」
グチュッグチュッ…ズチュッズチュッ…グチュッグチュ
「発情したメスの匂いが部屋中に充満してるみたいだ。瑠璃は気付いてないかもしれないけど、さっきよりも随分と気持ち良さそうな顔をしてるよ?」
「んっ、はぁっ、ぁんっ! はぁ、はぁ……あぁぁッ……!!」
「ほらね、上の口も下の口もだらしなく開いちゃって、さっきまでの恥じらいは何だったのかな」
動きの衰えぬ男の腰遣いに下半身が麻痺し意識まで朦朧としてくる。
くすくすと嘲笑う夫の声色までもが微弱な電流のようになって脳を刺激し、心地よく感じてしまう。
「こうやって犯されると、オナニーしていたのも馬鹿馬鹿しく思えてくるんじゃない? 指より本物の方が断然気持ち良いでしょ」
「はぁっ……あん、ぁう……はぁっ、んん……」
ズブッズブッ…グプッ…ズチュッズチュッ
「目隠しされると感度が増すっていうのは本当かな。だって瑠璃、もうすっかり快楽の虜だ。僕の声なんて全然聞こえてないみたい」
「あっ、や、っぁあ……だめ、イ……っ、はぁ……あぁぁッ……!!」
「あは、何度イッても構わないけど、まだ勝手にトばないでよね。お楽しみはこれからなんだから」
昇り詰めた快感が全身を一気に駆け巡り、頭が真っ白になっていく。
痙攣する身体を男は揺さぶり続け、何度も何度もオーガズムが襲ってくるみたいだ。
「もっと僕たちの愛を深めようよ……ね? 瑠璃」
私たちが交わることはない。
けれど確実に、今、互いの溝を埋めようとしている。
―――これが愛の形だから。
歪な傍観者【完】
2016/10/08