p.5
「もういいもん…私、帰る」
頬を膨らませて、扉の方へとくるっと向きを変える。
しかし創は私の肩を掴んでそれを引き止めた。
「おい。待てよ」
私を壁に押し付けるようにじわじわと追い詰め、両手をついて逃げ場を塞ぐ創。
「えっ、な、何…」
眼鏡を外して胸のポケットにしまうと、ニヤリとこちらを見つめる。
そして、恐れ戸惑う私の唇を突然創の唇が覆った。
「んんっ…!」
「せっかく来たのに、何もせずにそのまま帰すわけねぇだろ。馬鹿め」
少しだけ唇を離してそう言うと、再び激しく重ね合わせた。
「ふ…ぁ……、んん…っ……!」
息が苦しいほどに舌をねじ込まれ、熱いキスが降り注ぐ。
先ほどのワインの酔いなんかよりもずっと頭がクラクラして、全身が溶けてしまいそう。
「ん……創……ふ……ぁ…」
「ハッ…、お前の吐息、エロ」
「ぁ…っ…んぁ…」
ねっとり絡み合った舌を伝って、唾液が零れ落ちる。
脚が小さく震えて耐えきれずに壁に身を預けた。
創はそんな私の腰に手を回すと、自分の方へと抱き寄せる。
「あれ。どうしました?お嬢様。腰が抜けて、立っていられないのですか?」
急にそんな執事らしく振舞って私を辱める。
無意識に頬を赤く染めると、創は小さく笑みを漏らした。
「…っくく、いい顔してんな。俺が欲しくてたまらないって顔してる」
私の反応を見て面白がるなんて……本当に、意地悪。
けど、そんな意地悪も私の身体を熱くさせる一つの材料となっていることを創は知っているのだ。
5/10