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あぁ……この声は。
見上げなくても分かる。大好きな、創の声。
「ったく、飲み慣れてないものを大人ぶって飲み続けるからこうなるんだ。ほら、立て。ここで寝るなよな」
ぎゅっと頬をつねられて痛みに顔を上げた。
普段は欠けるものが何一つない完全無欠な執事の創だけど、私と二人きりになるとこうして態度が一変するのはもう慣れっこだ。
執事から恋人へと関係が変わるまでは気付かなかったことだけど……恋人の創は、すごくすごく意地悪。
「何よ…創があんなにワインを注ぐのが悪いんだから。私が苦手なこと知ってるくせに」
「そうやって人のせいにするのはやめろ。はぁ……とにかく、寝るなら部屋へ戻れよ」
「むぅ…わかってるよ、もう」
不機嫌な創の言葉を浴びて渋々立ち上がろうとすると、酔った足元がぐらりと揺れた。
「きゃっ…」
咄嗟に伸ばした手を創がしっかりと掴んで支えてくれる。
だけど、バランスを崩したまま私は創の胸にもたれ掛かる形になってしまった。
「ご、ごめん、足に力が入らなくて…」
何とか立とうとしてみるが、どうにもこうにもフラフラする。
「チッ…仕方ねぇな、本当に」
創は軽く舌打ちして私の腰に手を回した。
「えっ?ちょっと、創何して…」
抵抗するよりも早く、創はひょいっと私を持ち上げて。
お姫様抱っこ状態になってしまった私は、恥ずかしくて創の胸を叩いた。
「や、やだ!自分で歩くから、おろして!」
「はぁ?歩けない奴が何言ってんだよ。暴れると落とすぞ」
「でも、こんなの恥ずかしいって…」
「別に誰も見てないだろ。ほら、首に手回せよ。本気で落とされたくなけりゃ、しっかり掴まってろ」
そう言われて、私は観念して創にしがみついた。
広い家の中にコツコツと創の革靴の音が響く。
それが何だか心地よくて、包まれている身体がぽかぽかして。
何だかまた、眠くなってきちゃった…。
3/10