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一瞬で創の鋭い視線が私の手を捕らえる。
「あっ…」
思わずガタッと音を立てて椅子を引くと、その反動で肘に当たってしまった銀のフォークが床へ落ちた。
東堂さんも慌てて手を離し、気恥ずかしそうに咳払いをしている。
椅子を戻し落としてしまったフォークへと腕を伸ばすと、創がすかさず手をかざしてそれを止める。
「お嬢様、そのままで。僕が拾いますので」
「あ…、うん」
東堂さんにはきっと分からないけど、私には分かる。
創の声が、とても冷やかだったことを。
「こちらが東堂様のお持ちになられたワインです。お嬢様、どうぞ」
新しいグラスに真っ赤なワインが注がれて、私はそれを手に取った。
口に入れた瞬間むわっと香りが広がる、少し癖のあるワイン。
堪らずむせてしまいそうになるのをこらえてにっこり笑って見せた。
「気に入ってくれたかい?せっかく君のために買ってきたものだから、良かったらたくさんどうぞ」
東堂さんは満足げにそう言って料理を口に運ぶ。
実はお酒は苦手なんです、なんてとても言える雰囲気ではなくて、私はなんとか飲み干した。
◇◆◇◆◇◆
それから二時間、デザートまでゆっくり楽しんでようやく東堂さんは帰って行った。
楽しんでいたのは、彼一人だけど。
当の私は、確か他愛もない退屈な話が続いたような気がしたけど、後半は酔いが回ってあんまり覚えていない。
「んんー…、疲れたぁ」
テーブルにだらしなく突っ伏して、ようやく解放された清々しい空気を吸い込んだ。
身体が熱くて、重い。
だけど頭はふわふわして気持ち良い。
そのまま目を閉じて眠ってしまいたくなるが、頭上から飛んできた声がそれを邪魔した。
「―――こんなところで、行儀の悪いお嬢様だな」
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