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リビングのソファに鷹斗と並んで腰掛けるなんて何年ぶりだろう。
我が家のように馴染んだはずの空間なのに妙に落ち着かなくてそわそわしていると、鷹斗が隣で突然プッと吹き出した。
「あーあ。グチャグチャ」
見ると、先ほど落としたせいで角が潰れてしまったケーキの箱を鷹斗が躊躇いもなく開けて眺めている。
「ちょっと!? 何勝手に開けてるの!? これは優斗に食べてもらおうと思って……」
「そんなの分かってる。けど、今さらあいつには渡せねーだろ? 誰が食うんだよ」
「別にこんなの、捨てるからいいよ……」
口を尖らせながら俯くと鷹斗が思いっきり私の頬を摘まんでつねる。
「ひはっ……!?」
「食いモン粗末にすんな。形が崩れただけなら普通に食えるだろ」
そう言って、もはや原形をとどめていないショートケーキをおもむろに取り出すと大きな口でかじりついた。
「なっ、何やってんの!? 鷹斗は甘い物嫌いじゃん!」
「ッ……、けほっ」
止める間もなく口にしてしまった鷹斗は、案の定むせ返ってしまっている。
「ほらやっぱり! もう……」
無理して食べることなんてないのに。
そう文句を言いつつも、鷹斗の優しさが嬉しくて少しだけ笑ってしまう。
「お前これ、砂糖入れすぎじゃねーの……」
げんなりした表情を浮かべながらも全て平らげてくれた鷹斗は、親指で口元をさっと拭った。
「だって優斗は甘いのが好きだもん」
「あぁ、そうだったな……これはあいつのためのケーキだもんな、当たり前か」
独り言のようにそう呟いた鷹斗の横顔はどこか寂しそうで、また心臓がドクンと脈打つ。
「こ、今度は! 鷹斗に作ってあげてもいいよ……?」
「は?」
「ガトーショコラとか……甘くないものなら鷹斗でも食べれるんじゃないかと思って……」
「お前が俺に作ってくれんの?」
「わっ、悪い? 私はただ、さっきのお礼がしたいだけだし……! 別に変な意味じゃっ……」
まじまじと見つめられてつい憎まれ口を叩こうとする私に、ふっと鷹斗は微笑んだ。
「いや、全然悪くねー。むしろ嬉しい」
「っ……!」
鷹斗がこんな風に優しく笑うなんて、初めてみた。
どくん、どくんって……何? この感じ……。
まるで私、さっきから恋してるみたいに心臓がうるさい……。
……え?
今、私……なんて?
―――……恋?
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