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固まってしまった私に、優斗はいつもと変わらない穏やかな表情でサラリと告げた。
「あぁ、小春にも紹介しなきゃね。この子、僕の彼女。ちょっと前から付き合ってるんだ」
「か、かの、じょ……」
震える声をどうにか振り絞って尋ねると、後ろの女の子が私に向かって丁寧にぺこりと頭を下げた。
大人しそうで、清楚で、私なんかよりずっと細身で、可愛らしくて。
優斗の隣に立っていることに全く違和感を感じないほど釣り合ってるお似合いのカップル。
そんな二人を目の当たりにしてますます身動きの取れなくなる私に、優斗は不思議そうな顔を浮かべて言った。
「僕たちはこれから映画に行くんだけど。小春は、鷹斗と約束? ……なんて、まさかね。もしかして僕に何か用があった?」
「えっ……あ、えっと……私は、その……」
咄嗟にケーキの箱を後ろ手に隠したが、ごまかす言葉が見つからない。
俯いて口ごもっていると突然強い力が私の肩をグイッと引き寄せた。
「そのまさかだ。俺がコイツを呼んだんだよ。悪いか?」
「へっ……!?」
驚いて見上げると、鷹斗は私の肩をきつく抱いたまま睨みつけるような視線を優斗に飛ばしている。
「え、そうなの? 本当に?」
いつも口喧嘩ばかりしていた私たちなのだから、優斗が目をパチパチさせているのも当然だ。
「驚いたな。いつの間にそんなに仲良くなったの? 二人とも」
それはこっちが知りたい……なんて言いたいところだけど。
鷹斗なりに気を利かせてくれたんだと思ったら、何も否定する言葉など出てこなかった。
「俺たちのことは放っとけよ、邪魔すんな。それよりお前らデートなんだろ? 早く行けって」
「あぁ……まぁ、そういうことなら小春もゆっくりしていくといいよ。鷹斗のことよろしくね。それじゃ、僕たちは行こうか」
そう言って優斗は小さく微笑むと、照れくさそうにはにかむ彼女の手を取って歩き出す。
鷹斗があんな風に言ったって、全然妬いてもくれないし……気にしてもくれない。
優斗の心はもうすっかり彼女のものなんだ……。
強張る顔で必死に笑顔を作り、どちらからともなく寄り添い合う二人の背中を見送った。
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