南雲薫と雪の日

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ホームから出ると、雪がちらほらと舞っていた。
立ち止まって、空を見上げる。
灰色の空から舞い落ちるは真白い雪ばかりである。
不思議なものだと、名字は思った。あんなにも暗く、淀んだ雲からこんなにも真白い雪ができるだなんて。
「まったく、桃の節句なのに雪なんてツイてないね」
声をした方を向けば、南雲が傘を差して先の名字と同じように空を見上げていた。
「…南雲、学校まで傘に入れてくれ」
やれやれといったふうに、南雲が肩を竦めた。
「あんたが風邪なんて引いて学校休んだら妹が悲しむからね」
南雲が差し出した手を名字は素直にとり、歩きだす。二人のときだけの、小さな秘め事。まだ早朝の駅周辺には学生は少ない。二人が歩く度に、さくり、と雪がやわらかな音をあげる。昨晩から降り続けてる季節はずれな雪は、存外しっかりと積もっていた。二人は足を滑らせないように気を付けながら歩いた。ニュースでは今日は春なのに冬並みの寒さだと言っていたか。名字は軽く身震いした。本当に、冬のようだ。
「まるで冬だな」
「暦の上ではもう春なのにねぇ」
こくり、と頷いて返す。
「冬は嫌い」
「あぁ、お前は寒がりだからね」
「うん。寒いのは苦手」
「俺は冬が好きだよ」
「……雪?」
「それもあるけど。寒いのを口実にくっつけるだろ」
「……」
頬が熱くなったのを悟られぬよう、軽く俯く。
「顔、真っ赤だけど?」
「うるさい、馬鹿」




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