セシルに励まされる


「名前、浮かない顔をしています。どうかしましたか?」
「──あぁ、セシル。なんでもないよ」
「嘘です。目の下に隈があります。普段なら絶対にありません」
何かあったんですかとまっすぐと見つめられて、つい苦笑した。セシルの目は真っすぐで、この目に見つめられるとたちまち嘘がつけなくなってしまう。心配してますって顔にデカデカと書いてあるセシルにそっとほほえみかける。
「ちょっとね。でも大丈夫よ、セシル」
「でも──」
「私個人の問題だから」
ね、と言うとセシルは黙り込んだ。
ここの所眠れてないのも、新しい楽譜が書けないでいるのも全部自分自身の問題だ。パートナーであるセシルには申し訳ないけど私は春歌(ミューズ)じゃないし、セシルにピッタリの優しい曲なんて書けない。私に書けるのはせいぜいバラードと、つまらない音符が並んだ楽譜しか書けない。
「……ワタシでは頼りないですか?」
「セシル?」
「名前は何も言ってくれませんね。いつも一人で抱え込んで、一人で解決してしまう。ワタシ達はパートナーなのではないですか?」
俯いて黙り込んでいると、セシルは私の両手をぎゅっと優しく握った。
「ワタシは名前の作る音楽が大好きです。悲しいけど美しくて…この音楽に希望が溢れたらどんなになるだろうとワタシは思うんです」
希望──スクールに通っている時にも、社長にも言われた言葉だ。私の曲には、それが足りないとよく言われた。今でも表現できずにいる。
「ワタシは、アナタの作った曲で歌いたい」
思わず泣きだしていた。
私の作った曲を評価してくれた人はたくさんいた。だけどいつだってその評価は売り物としての評価だった。
セシルはただ純粋に私の作った曲を、歌いたいと言ってくれる。そのことがとても嬉しかった。
突然泣き出した私に、セシルがおろおろとうろたえてる。
「名前。ワタシは何か、悪いことを言ったでしょうか……?」
「ううん、違うのセシル。嬉しいの」
「嬉しい?」
「うん、嬉しい」
きょとん、としたセシルが目を瞬いて首を傾げた。
まだ目じりに残る涙を拭ってセシルに微笑んだ。
「セシル、ありがとう」
今ならば優しくて暖かな、セシルにピッタリの曲が書ける気がした。



140514

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