山南さんが嫉妬する




「お前さんって案外大胆なんだなァ」

いきなり左之助に喋りかけられ、女は――否、まだ少女と呼ぶべきか――はそれまで平助の髪を梳いていた手をとめ、首を傾げた。

「なにが、ですか」

「なにが大胆なんだよ、左之さん」
なんだお前ら知らねぇのかと、左之助は軽く目を見開き、驚いた。
「女が男の髪をすくのは睦みごt「原田くん、そこまでです」

「敬助さんっ」
「「山南さん」」

静かに襖を開ける音と共に入ってきたのは新選組総長・山南敬助だった。何故だか彼の後ろに般若が見えるような気がするのは気のせいだろうか。

「敬助お帰りなさい!街に出てたんですよね、どうでした?」

それまで平助の髪をすいていたのを止め、山南の下へと嬉しそうに駆け寄る。

「えぇ。いつも通りでしたよ」

山南がにこりと笑んで応えた。その答えに満足したのだろう。少女は胸を撫で下ろした。

「これをどうぞ。貴方に似合うと思って買ってきたんです」

山南が懐から出したのは一本の簪だった。小菊と牡丹の飾り彫りが入っている、べっ甲で作られた平打簪だった。

「わぁっ白甲じゃないですか!良いんですか?」

「えぇ。もちろんです」

にっこり、と効果音が聞こえてきそうな程に爽やかに山南が笑んだのを見て原田達は背筋を凍らせた。一方、山南から簪をもらい有頂天になっている少女は先程の事など忘れてしまったかのようだ。
「早速山崎さんに結って貰って来ますねっ」と意気揚々と部屋から小走りに出ていった。
その後を追うように山南も部屋を出てゆこうとし──
後ろを振り返ると、こう言った。
「原田くん、くれぐれも彼女の耳によけいな事は吹き込まないでくださいね」

菩薩のような笑顔の裏に般若の影を感じた原田と平助の2人は背筋に冷や汗がつたったとかなんとか。
まぁ取り敢えずはめでたしめでたしなのでした。

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