H.Masato

∴無印発売から歳は数えました。


いつも彼に手紙を書く時はとても緊張して、すこし手が震えてしまう。なんたって彼は、私からしたら雲の上の人だ。きっと一生手が届かない。テレビで、街頭のポスターで、雑誌で。いろいろなところで見ることはあっても、話すことも、触れ合うこともない。
彼はアイドルで、私は一般人だから。
こうしてファンレターという形でしか、彼に思いを届けるすべはない。


   拝啓 聖川真斗さま

  お誕生日おめでとうございます。
 ついに二十歳ですね。おめでとうございます。雑誌で抱負を読みました。あなたらしいなぁと、読んで嬉しくなりました。
 今年は特別なので、2つ送ります。1つはは昨年送ったストラップを更にバージョンアップさせてみたものです。質感と手触り、匂いにもとてもこだわって作りました。お気に召していただけたら、嬉しいです。
 あなたのますますのご健勝、ご活躍を祈ってます。


   敬具



同封されていた手紙を読み終えて、聖川はじんわり胸が熱くなるのを感じた。応援してくれる彼女たちに恥じぬ自分でありたいと、こうしてファンレターを読むたび思う。
箱の中には、割烹着を着てお玉を持ったクマのぬいぐるみとストラップがあった。ストラップを手に取ってみる。
「これは……!」
メロンパンだった。
この形、手触り……鼻を寄せてみると、匂いもした。ストラップのチャームなのに、それは小さいながらも立派にメロンパンだった。
去年送られたメロンパンのストラップは、今も聖川のスマートフォンで揺れている。こちらはメロンパンが一つついただけのシンプルな物だが、今聖川が手にもっているのはたしかにバージョンアップしていた。
更に向上したメロンパンのチャームと、聖川の衣装によく使われる青いリボンがついていた。リボンの端には、名前が綺麗な色で刺しゅうされていた。
シンプルな作りだが、ぐっと惹かれるものがあった。
聖川は早速スマートフォンに取り付けると、目線の辺りまで持ち上げてしげしげとそれを眺めた。
目線の先で揺れるのは、2つのメロンパンだ。
1つは去年、デビューしたその年に。
2つめは今年、二十歳の誕生日にもらった。
彼女から貰った手紙は、他のファンレターとは別に保存していた。
いつも丁寧な文面で、出過ぎず、此方を気遣う内容に聖川は惹かれた。一度返信しようと思ったのだが、いかんせん、封筒にも手紙の末尾にも住所が書かれていないのだ。消印から察するに、住所は県外なのは確かなのだが。
聖川は手紙をもとに戻すと、彼女からの手紙を入れている箱に封筒を入れた。その上にクマのぬいぐるみを置いた。何故割烹着を来ているのかは不明だが、聖川はそのぬいぐるみがなんとなく気に入った。






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