R.Mukuro



私は骸さまが苦手だ。
骸さまというのは私の上司でいやらしい性格をしている人だ。いつもクフクフ笑ってるし嫌味だし髪型がフルーティーだし。あとそのくせ顔が整っててかつ自分がイケメンと自覚してるところも。骸さまの考える作戦はいやらしいし、ボスを小馬鹿にしたような態度も嫌だ。幹部の皆さんは(一部を除いて)仲が良いみたいだけど、それにしたってひどいと思う。こないだなんて部下の目の前で「君は相変わらず馬鹿ですね」なんて言っていた。時と場合を考えろよくそ上司め。辞表も異動届も全部この上司に握り潰されてる。腹が立つ。とにかく私はこの上司が苦手だ。むしろ嫌いとさえ思っている。イケメンなんて爆発してしまえばいいんだ。


「先程から何をブツブツ言ってるんですか。気持ち悪いですよ」
「ほわぁっむ、骸さま!?」
「うるさい」


殴られた!理不尽だ。驚いてつい大きな声が出ただけなのに。
骸さまは眉を寄せて私を見ると、「始末書はまだですか」と一言。前回の任務で建物を全壊させ生け捕りのところを一人残らず殺してしまったので、その始末書だ。つい頭に血が上っていたとはいえやりすぎた。この件に関しては骸さまだけでなくボスにも叱られた。丁度手元にあったので渡すと、パラパラとめくったあとふんと鼻で笑われた。解せない。私はちゃんと書いたはずだ。


「犬よりはマシですね」


そんなことないと言おうとしてぐ、とこらえる。犬よりはマシということはつまりは私は犬と同レベルと言われたのだ。ふざけるな私はあんな馬鹿じゃないし下品じゃない。……戦闘力、という点では私のが下だけど。どうして私がこの人の部下なのかいまだに解せない。ある程度のことは自分でできるんだから私なんていらないだろうに。ぶっちゃけ戦いたくないとが本音だけど。本部の情報部に行きたいなぁ。私そっちのが向いてると思うんだ。また異動届を握り潰されたのを思い出してため息をつく。


「人の顔を見てため息とは良い度胸ですね、名前」
「ふぃまひぇん、ほっへあひゃにゃひへくらはい」
「今日が何の日か知ってるでしょう。今日くらいは可愛くできないんですか」
「やふぇす」


骸さまが私をにらむ。負けじと私も目を逸らさずにらむと、骸さまがすごく残念なものを見るような顔をして私のほっぺたを放した。ああ痛かった。ほっぺたの肉がもげるかと思った。「あなたに可愛げを求めたのが間違いでしたね」なんだとコノヤロウ。私だっておべっかくらい使えるんだから。
てか今日が何の日かくらい知ってるし!朝から犬たちがうざいくらいはしゃいでたからね!


「祝ってほしいなら食堂へどうぞ。今朝から犬と千種たちが準備してましたよ」


ちなみに私は参加していない。こないだなんて綺麗な女性にちやほやされてたし、どうせならその人に祝ってもらえばいい。可愛くもない私なんかに祝ってもらっても嬉しくないだろう。


「上司の誕生日を祝わないと?」
「異動届を受理してくださるのなら喜んで」
「ちっ……僕の何が不満なんてすか」
「……早く犬たちのところに行ってはいかがですか?」


そんな傷つきました、なんて顔をされても知らない。私とあなたはただの上司と部下でもう恋人同士じゃない。いちいち祝う義理はない。


「っ名前、意地を張るのもいい加減にしなさい!」
「悪いのどっちですか!あなたでしょう!そんなに祝ってほしいならあの女のとこにっ……ふ、んぅ」


急に引き寄せられて、乱暴に口付けられる。持っていた書類が床に落ちて散らばる。抵抗しようにも両手をふさがれていてできない。

「っなにをするの!」
「あの女とは手を切りました。そもそも任務に必要だったんです」

ぎゅうぎゅうと抱き締められて、思わず切なくなる。骸なんて、嫌い、なのに。


「好きです、名前……愛してるんです」


私は馬鹿だ。こんな言葉で許してしまいたくなる。これで何度目だろう。もう何度も同じ事を繰り返しているのに、分かり切っているのにまた許してしまうんだ、私は。とてもとても悔しいことに、私はこの人を好きになってしまったのだ。仕方ないんだ、と諦めるのが一番なんだ。
私はそろそろと骸の背に手を回す。


「……私も好きだよ、骸」


久しぶりに彼を呼び捨てで呼んだ。よけいにぎゅうぎゅうと抱き締められて、まぁ悪い気はしない。最終的に私のところに帰ってくるならそれでいいや。


「誕生日、おめでと」






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