私を生かす死の宣告

最初は友人たちだった。
次は家を、
その次は仕事を、
その次は私を。

彼は奪った。



彼はゆっくりと私を独りにしていった。まず私から友人を遠ざけた。その次には帰るべき家と家族をなくし、仕事を奪い私を地に堕とし、──私を殺しました。
今はもう、雑渡と配下の一部以外に私をしる人はいません。
友人だった人たちとはもう何年も連絡をとっていませんし、家族や親族なんかももういません。仕えていた城は一夜の内にこの国の属国となり、私はその戦で死んだことになっています。
それを悲しいとは、思ったことはありません。
すべては愛故だったのです。全てが雑渡の私への愛故なのだと分かってしまったから、享受することにした。私は彼をいつしか愛していました。






障子開け放たれ、満月が煌煌と部屋を照らす。雑渡は並々と注がれた盃を傾けた。朱色の盃を雑渡の薄い唇が食み、酒を味わう。こくりと雑渡の喉仏が上下して嚥下するのを見て、今日はやけに酒を飲むなと思った。珍しい。
空になった盃に酒を注ごうとすると、空いた手で制止された。首を傾げると、彼は私の頬に手を添えた。
「ねぇ、君は私をうらんでる?」突然の質問に私はびっくりして、瞬いた。一体どうしたというのでしょう。本当に今日は、あなたらしくない。
私はゆっくりと首を左右に振って、傍なおいてある帳面に書き込む。
『いいえ。そのようなことはございません』
「君の友達や家族を奪ったのに?」
『はい』
「君の声と足を奪った」
『はい』
「それでも君は私が憎くないのかい?」
にこりと微笑むと雑渡は呆れたとばかりにため息を吐いた。君はとんだお人好しだね、と一言。
『お人好しなどではございません。それとも貴方は私に憎まれたかった』
書いている途中で手をきつく握られた。いつもの余裕はどこに行ったのやら雑渡の目は言葉よりも雄弁に怒りを表していた。そのまま強引に押し倒されて首を絞められた。気道が圧迫されて上手く息ができなくて、とても苦しい。
「もし。もし、そうなっても私は君を手放さないよ」
愛してるよ。
雑渡の唇がそう嘯いた。



私を生かす死の宣告




リーの色彩理論さまに提出。




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テーマ「人外ファンタジー」
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