もしもPPの世界に観用少女(プランツドール)があったら




目は口ほどにものを言うと古くから言うように、宜野座は目ほど雄弁に語るものは他にはないと思っている。嘘も迷いも何もかも――目を見れば分かってしまう。口よりも雄弁に、言葉よりも正確性を以て宜野座に話しかけてくる。
咬噛が振り向いて、宜野座の目を見た。宜野座は黙って頷いた。
けたたましい音を立てて扉が蹴破られた。
突入すると、部屋の中は真暗だった。宜野座は眉を寄せた。まだ昼間だというのにカーテンを締め切り、よく目を凝らせば、内装のホロの電源でさえも切っているようだ。
宜野座と咬噛は辺りを警戒しながら手探りでスイッチを探すと電気をつけた。
宜野座ははっと息を呑んだ。
目だ。
宜野座と咬噛は、気付くとおびただしい数の目に囲まれていた。
どこを見回しても、目、目、目。
一様に同じ形で同じ目をしたただひとつを覗いてなにもかもが同じの少女が、二人を見上げていた。目の色だけが違う。つるりとしたガラス玉の目が二人を逆さまに映す。なにもかもが均等にバランスが良く作られたそれは、何かがかけているように宜野座には見えた。何かが足りない。
半ば唖然としながら、二人は辺りを慎重に見回した。何か不審物ないか、潜在犯がどこかに隠れていないか。もしかしたら部屋を間違えたのかもしれないと宜野座はふと思ったが、そんなはずはない。きちんと確認した。
我知らずと生唾を飲んで、宜野座は自分が怖れていることを覚った。首を振って、心の内で自分に喝を入れる。
何を怖れる必要がある、あれはただの人形だ。無機物だ。ただ最近は珍しいホンモノではあるけれど、それだけではないか。
宜野座はつるりとした白磁のような人形の頬を蹴飛ばした。
ドミネーターは無言だった。
「ギノ」
「どうした咬噛」
「少女がいる」
「は?」
少女?
なんでこんなところに?
宜野座が疑問に思って振り向くと、一対の碧の目と目が合った。ゆくっと少女が瞬く。
足元に鎮座する人形たちにたりないのはそれだった。







あの日、被疑者の自宅で見つけたのは碧眼の不思議な人形だった。それは人形なのに動き、眠るし食事もする。まったくしゃべらないこと以外は、まるで人間みたいだ。ときどき間違えてしまいそうになる。
その人形の正式な名称は観用少女(プランツドール)といい、都内のどこかの店で売っているという噂があった。買うには目玉が飛び出るような金がかかり、育てるにも金と手間がかかる。一番大事なのは、愛情。これがないと枯れてしまうらしい。
こんな人形のどこがいいのだろう、宜野座はため息を吐いた。
ずっとしゃべらず、まっすぐにガラス玉の目で宜野座を見上げる。碧の目は、ただ宜野座だけを追い掛ける。ガラス玉の目はただ宜野座を逆さまに映すだけで、そのことが宜野座を不快にさせた。がらんどうなあの目を見ていると、とても不安な気分になるのだ。表情は、一日三回のミルクのあとの満足そうな微笑み以外にはなく、常に無表情だった。それがよけいに宜野座の不快を煽った。
店が見つかれば返品するのだが、なかなか見つからず、宜野座は仕方なしにプランツドールを育てることにした。
とは言っても、宜野座は一日中家にいるわけではないので、昼は共に職場にいる。現場に行くときは唐之杜執行官に預けていった。菓子など絶対に与えないようにきつく宜野座は言ったが、内心は不安で一杯だった。唐之杜執行官の腕は確かだが、素行についてはいささか疑問が残る。






数週間か暮らしていくうちに、宜野座はふと人形が元気ではないことに気付いた。ミルクはいつも通り飲むし極上の笑顔も健在だ。だけどどことなく、寂しげな雰囲気だった。人形が寂しそうに見えるなど、錯覚だ。宜野座は自分にそう言い聞かせた。







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