白い朝顔が咲く庭

自室に向かう途中、雨粒が地面を叩く音に混じってピアノの音が聞こえてきた。曲名は分からないが、悲しい曲だなと椿は思った。
悲しい、切ない曲だ。それを弾いているだろう名前の今朝の表情を思い出して、椿は表情を曇らせた。まぶたを真っ赤に晴らして、充血した目で、それでも名前は大丈夫なのだと笑っていた。まるでなんでもないふうに振る舞うものだから、兄弟の誰もが言葉を飲み込んでしまった。大丈夫か、なんて聞けなかった。笑った顔が、さわらないでと泣いていた。ふれないでと叫んでいた。だから椿たちには、そっとしておくしか、術がなかった。いいや、もしかしたら他にかけられる言葉があったのかもしれない。だけどそれを言って、なんになろう。どんな慰めの言葉も、今の名前には刃なのだ。
椿は一つ、重いため息を吐いた。
こんなときになにもしてあげられない自分が憎かった。兄なのに、家族なのになにもしてあげられない。そのことが悔しくてたまらなかった。




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