ルベウスに染まる世界


珍しく店に来たかと思ったら、遥くんはずっとむっつりと黙ってる。とりあえずいつもの紅茶とサンドイッチを出すと、無言で食べはじめた。
それにしても、急にどうしたんだろう。聡明さんから連絡もないし、遥くんはきっと自主的に来たんだろう。なっちゃんたちお供なしで。…よくよく考えるとこれはとても珍しいことなんじゃないだろうか。
「悪かったね、めずらしくて」
唐突に話し掛けられて、肩がはねた。そして遥くんの言葉をゆっくりと咀嚼して返事をする。
「別に、悪くないよ。嬉しいなぁって」
にっこりと笑うと、思い切り眉を顰められた。
時々、彼らが『狼』だということを忘れそうになる。見た目は私たちと変わらないし、使う言語だって。彼らが情報収集に特化した能力を持っているのだとは誰も分かるまい。聡明さんに言われるまで、私は何も知らなかった。
そういえば聡明さん、最近見かけないなぁ。次はいつ来てくれるんだろう。
「聡明さん聡明さんって、飽きないね」
呆れたような顔で、遥くんが言った。
「だって、素敵じゃない。とても魅力的よ」
遥くんが眉を思い切り顰めた。
うーん、どうしたら彼に聡明さんの素敵さが伝わるのかな。



少しの間も置かないで返ってきた返事に、うんざりとした。彼女の思考が聡明さんの素敵だと思うところを一つ一つ揚げてるけど何一つ共感出来ない。カリスマ性があるのは認めるけどね。仮にも僕らの頭領だし。
なんでこの人はこんなにも聡明さんばかり。あんなオジサンのどこがいいのか、僕にはさっぱりわからない。
僕はあっそと返して、紅茶を一口飲む。
彼女の声が好きだ。
嘘の無い、真っ直ぐな声音は心地よく響く。だけど彼女が聡明さんの事を考えているときばかりは、嫌いだ。ノイズなんか交じっていない、真っ直ぐな声なのに、それは僕の中身をかき乱して、醜くさせる。

「ねぇ、」





「どうしたら、僕を見てくれるの?」


遥くんの真っ赤なルビー見たいな目と目が合った。真っ白い雪みたいな髪に、真っ赤なルビー見たいな目。まるでうさぎさんみたい。
「私ね、うさぎがとても好きなのよ」




ルベウスに染まる世界





ルベウス:ルビーの語源でラテン語。意味は赤
ルベウス→ルビー→遥の目→遥色に染まる的な




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