禁断の果実を食べた二人

※近親相姦です
※きもち桜庭一樹の私の/男のパロディ的な感じ。ちょっとだけ









「骸はね、最低なの」
「最低?」
「うん、最低なの」
そう言って彼女は今日初めて、笑った。まるで自分の恋人を自慢するみたいに少し得意気に、とても幸せそうな微笑みで彼女は最低なのと言った。
その時僕はゾッとするものが背を過ったのに気付かないふりをした。気付いてしまったら、元には戻れない気がした。僕はそう、と話を切り上げて、ステーキを一口分に切って食べた。



骸の大きな手が好きだった。あの手が私のからだをまさぐるとき、私はいつもドキドキしてちょっと恥ずかしかった。何も知らなかったあの頃とは違って、私は今「女」だった。骸との関係には嘘もみえもなにもなく、ただそこには愛があった。ただひたすらに互いに互いの愛だけを求めていた。骸は私からなにもかも奪った。私のぜんぶは骸のもので、骸は私のものだった。
良い心地で沢田くんに寄り掛かりながらふらふらと夜道を歩く。沢田くんは見た目のわりにはしっかり男の人らしく、私の体を支えながら歩いていた。意外と力持ちだなぁ。なんだか可笑しくて笑うと、沢田くんがどうしたのと言う。「足痛いの」「あー、おんぶする?」「ううん、もう少しだからいいや」それ何回目、と沢田くんが苦笑した。あーあ、10pヒールだなんて履いていくんじゃなかった。足が痛い。
少し先の電灯の下に、骸が居た。
沢田くんから離れて、骸に駆け寄る。そのままの勢いで抱きつくと、少しもよろけずに骸は私を受けとめた。名前を呼んで髪を梳かれる。顔を上げると、こめかみにキスが落ちてきた。くすぐったくて笑うと、今度は鼻先にキス。

「名前」
「ふふ、骸だぁ」
「そんなに飲んでどうしたんです」
「んー、気持ち良かったから」

へらりと笑うと、骸が苦笑して私の頬を撫でた。骸の胸に顔を埋めて深呼吸をすると、雨のにおいがした。





禁断の果実を食べた二人



「お──」
後に続いた言葉に沢田は一瞬、自分の耳を疑った。おとうさんっ。彼女は確かにそう言った。その言葉は今まで聞いてきたどんな「おとうさん」よりも甘く、ねっとりとしていた。
彼女が駆け出して、電灯の真下で突っ立っている黒いコートを着た細い男に抱きついた。男は優しい声で「名前」と彼女の名を呼んで頬を撫でた。見たこともない顔で彼女が笑った。男の方も微笑んで、彼女のこめかみと鼻先にキスをした。

親子のはずだ。

彼女がおとうさんと言っていたしそうなのだろう。だというのにこの背筋をかける悪寒はなんだ。まるで恋人を愛しむみたいに、男はが彼女の髪を梳き、彼女も享受していた。目を逸らしてしまいたいのに逸らせず、沢田は茫然とその光景を見つめた。


「君、娘を送ってくれてありがとうございます」

突然話し掛けられて、沢田はハッとした。

「いっいえ!娘さんを遅くまで連れ回してしまってすみませんでした。じゃぁ、俺はこれで!」


ぺこり、とあわてて頭を下げて、沢田は来た道を駆け足で戻った。

駅に着いて時刻表と腕時計を確認すると、ちょうど終電が出たあとだったら。沢田は気が抜けてその場にへたりこんだ。久しぶりに走ったせいか、喉と肺が痛い。ネクタイをゆるめてボタンも三つくらい外して、パタパタと扇ぐ。冬だというのに、暑くて仕方なかった。はぁぁとため息を吐く。まだ耳にあの「おとうさん」がこびりついて離れない。あまりにあまい──ねっとりして絡み付くような

──おとうさんっ

沢田はもう一度ため息を吐いて、ポケットからスマホを出すと傍の看板に書いてあるタクシー会社の番号にかけた。




140710



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