リヴァイにクラバットを贈る



お帰りなさいと言えるのはとても幸せなことだなぁとつくづくと思う。二度壁は破られ、巨人の脅威は絵空事ではなくなった。人による反撃はまぁ成果を出せてはいるが、失ったものの方が遥かに多い。二軒向こうのご家族は前回の壁外調査で次男を失ったのだそうだ。悲しみに暮れる奥さんの姿には、涙を誘われた。
この世界にはたくさんの悲哀が満ちている。
そんな中で、毎日小さな幸せを見つけながら私たちは生きている。小さな些細な幸せが、私たちの生きる糧なのだ。
朝、起きるとすでにリヴァイは起床していて、荷物の最終確認をしていた。壁外調査の日のリヴァイの朝はいつもより少しだけ早くて、ちょっとピリピリしている。
おはようございますと声をかけると、よほど集中していたのかやや間があってからおはようと返ってくる。


「……起きたのか」
「はい。すぐに朝食の準備をしますね」


ああ、と彼が短く頷いた。私はベッドから出て顔を洗い、髪を簡単に整えると台所に行く。今日の朝ご飯はパンとスープ。それから少しの野菜とお肉だ。少しでも精のつく食べ物を食べてほしくて、壁外調査の日の朝食はいつもこれだ。二人ぶん用意して並べる。リヴァイはちら、とこちらを見てフンと鼻を鳴らした。
彼の胸元にはまだクラバットは結ばれていない。





朝食を食べ終えると、いよいよ行く時間だ。この日のために新しく新調したクラバットを、リヴァイの首に巻いて正面で結ぶ。この作業はもう慣れたもので、その分だけ彼の身体は危険に晒されたことになる。リヴァイが壁外調査に行くたびに私は願懸けを兼ねて、新しいクラバットをリヴァイに贈る。どうかリヴァイが、無事にこの家へ帰ってきますようにと願いをこめて。


「……いってらっしゃい、リヴァイ」
「行って来る」


ぎゅ、と抱き締めていた身体を離して、調査兵団の本部へと向かう彼の背を見つめた。街を照らす朝日がまぶしい。やがて彼の背中は小さくなって見えなくなった。
今日もまた人が死ぬのだろう。
それは知っている人かもしれないし、知らない人かもしれない。なるべく多くの人が帰ってきますように。リヴァイが無事に帰ってきますようにと私は朝日に願った。



140411




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