一ノ瀬から電話
※公式ヒロインは七海春歌で固定
課題のことで相談があった一ノ瀬が彼女のクラスに行くと、不在だった。わけを尋ねれば、風邪で休んでいるらしい。同室なのだという七海さん曰く、今朝は相当辛そうだったらしい。朝ご飯もそんなに食べなかったらしいし、一ノ瀬は心配だった。それは課題の進行具合についてもだが、なにより彼女のことが心配だった。努力家なのはいいことだが、一つのことに集中するあまりに他のことが疎かになってしまう人だ。七海の話によれば寝ているらしいが、起きていて作曲をするくらいしそうだ。
簡単に想像できてしまい、一ノ瀬思わずため息を吐いた。とりあえずメールで釘をさして、放課後にはお見舞いに行こう。熱にはなにがいいんだったか昼休みは過ぎていった。
放課後になって一ノ瀬はまず彼女に電話した。荷物をまとめて教室を出る。彼女の部屋に行く前にドラッグストアに寄るつもりだ。お見舞いにはゼリーを買ってから行こうと思っていたのだが、他に入り用のものがないか聞きたかった。ちなみにお昼休みのメールの返信はまだない。10コール目、一回切って掛けなおそうと思ったその瞬間に彼女は出た。少し擦れた声でもしもしと彼女が言う。
「もしもし?一ノ瀬です。七海さんから風邪で熱を出したと聞きました。大丈夫ですか?……無理して喋らないでください。急に電話してすみませんでした」
一ノ瀬が謝ると、電話ごし彼女がちょっと笑った。それから一ノ瀬を気遣うようにいいよ、気にしないでと言う。それよりも課題がまだなのだと謝られて一ノ瀬はちょっと罰が悪くなった。一ノ瀬は実は昨日、彼女に急かすようなことを言ってしまったのだ。
「……今は課題よりも休んでください。作曲家も身体が資本でしょう。……何か欲しいものはありますか?」
いらないよと遠慮する彼女に一ノ瀬は眉を寄せた。これは彼女の悪い癖だと思う。人からの好意であれなんであれ、何かにつけてすぐに遠慮してしまう。
電話しているうちにドラッグストアに着いた。
「まったく、あなたはいつもそうですね。謙虚なのはあなたの美徳ですがこういうときくらい甘えてください。…はい。ゆっくりと風邪を治してくださいね。ではまた」
そう言って電話を切る。電話ごしでの声の調子では、そこまで辛そうではなかった。喉は枯れていたが会話の最中に咳はなかったし、薬を飲んで寝ていればすぐに治るだろう。
彼女が食べたいと言っていたゼリーとスポーツドリンクをいくつかかごに入れる。目についたホッとレモンのレトルトもついでに入れた。おいしいかはさておき、喉には良さそうな気がした。
140327