リヴァイに鍵を渡される


時計を見ると、七時を過ぎていた。そろそろ帰らなくては。いやだなぁ、とこっそり心のなかでため息を吐いた。まだ帰りたくない。だけど帰らないと。九時までには帰らないと、両親がひどく心配する。リヴァイの家から私の家までは電車で1時間ちょっとかかる。今から出て丁度電車があれば門限には間に合う。なければギリギリかもしれない。しかめっ面で説教をする父親を思い浮べて、我知らずと肩を落とした。あの人たちは過保護が過ぎると思う。もう成人してるのだし、もう少しほっといて欲しいと思う。この年になってもまだ実家暮らしなのはそのせいだ。
無言で帰りの支度を始めると、リヴァイさんが首を傾げた。時計を指差せば、もうそんな時間かと一言。
「門限に間に合うのか」
「んー、どうだろ。ちょうどいい電車があれば」
「送っていく」
「えっいいよ。一人で帰れる」
珍しい申し出に、驚いてつい断ってしまった。でも一人で帰れるのは事実だ。少しもったいないかなと思わないでもないのだけれど。ところで明日は雪でも降るのではないだろうか。
こんな風に言ってしまうと、誤解を生むかもしれないけど、本当に、リヴァイがこんなことを言うのは珍しい。決してリヴァイが優しくないわけではない。むしろ昨今の男性にしては気づかいもまぁあるし、リヴァイは小さな優しさをたくさん私にくれる。
リヴァイがこんなことを言うのは滅多にないし、今日はやけに寒い。うん、そうに違いない。一人納得してコートを羽織ると、リヴァイに向き直った。

「お鍋おいしかったよ、ありがと」
「次はなにがいい?」
「次は私が作るよ。何か食べたいものある?」
「……ハンバーグ」
「チーズ入りの?」

こく、とリヴァイはすこし不満そうに頷いた。
夕飯は大抵リヴァイが作る。この小さくて目付きの悪い三十路男は、独身生活が長いだけあって料理が上手い。なんでも出来合いのものはあまり好きではないらしく、お菓子ですらもリヴァイの手製であることのが多い。市販のものは何が入っているか分からないって、警戒心が強すぎやしないかと思う。
玄関に行って靴を履く。
突然ぐ、と握りこぶしを2つ突き出された。

「どっちか選べ」

リヴァイはその体制のまま、私を少し見上げて言った。今日は少しヒールが高めの靴だから、自然とそうなってしまう。
じぃと見つめる視線に耐えかねて、右を選んだ。


「……右かな」
「それは俺から見て右か」
「へ、あーんと私から」
「俺から見て右か」
「えと」
「右か」

なんなのさリヴァイ!しつこいよ!
もうそれでいいやと思って頷くと、今度は手を出せ、とリヴァイ。空いてる方の手を出すと、冷たい感触がした。

「──え、」
「やる」

おそるおそる手のひらを見てみる。
冷たい感触の正体は鍵だった。

「い、いいの?」

驚きすぎて思わず吃ってしまった。付き合って二年と少し。お互いの家を行き来することはあったが、結婚はおろか同棲の話すら出てこなかった私たちだ。リヴァイをおそるおそる見ると、耳が真っ赤だった。珍しく、リヴァイが照れている──。リヴァイのそんな姿を見るのは、告白したとき以来だった。リヴァイがこくりと頷く。

「ありがとう、リヴァイ。大切にするね」
「あぁ。それと……」
「それと?」

聞き返すとリヴァイは目を逸らした。

「いや……なんでもない。これからはその鍵を使って好きなときに来い」
「うん。一応行く前には連絡するよ」
「冷蔵庫の中身や部屋にあるもんは好きに使って構わない」
「……うん」
「……指輪は、もう少し待ってくれ」

それから、とリヴァイは少し言い淀んだ。


「近いうちに、お前の親御さんに会いに行くぞ」
「うんっ!」

感動のままに、リヴァイに抱きついた。


「リヴァイ大好き!」
「バカ言え、オレは愛している」



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