弥ちゃんとまさにぃと電話する



四限のあった教室をあとにして図書館に向かう道すがら、普段はあまり使わない朝日奈家の固定電話の番号を呼び出して、受話器があがってるマークのボタンを押した。しばらくのコール音のあと、元気いっぱいの声でもしもし!と聞こえた。この声は多分弥ちゃんだ。
「もしもし、わたしだけど」
『おねーちゃん!どうしたの?珍しいね』
「ちょっとねー。京にぃか誰かいるかな?」
『まーくんがいるよー!呼んでるくるからちょっと待ってて』
ガチャンと音を立てて電話が切れてしまった。間違えて切っちゃったんだろうなぁと思ってかけなおそうしたとたん、電話がかかってきた。ボタンを押して、耳に当てると今度はちょっと困ったような声音のもしもし。
『ごめんね、さっきは。弥、間違えて切っちゃったんだって』
「気にしないでって弥ちゃんに伝えてもらっていい?」
『弥に今代わるから直接言ってやって──弥』
『もしもし、おねーちゃん?あの、さっきはごめんなさい』
「今度は間違えないように気をつけてね」
『うんっ まーくんに代わるね』
『もしもし』
「まさにぃ?あのね、今日図書館寄ってから帰るから遅くなるからお夕飯いらないって京にぃに伝えてもらっていい?」
『わかった。右京に伝えるね』
「お願いします」
『用はそれだけ?』
「うん、それだけ」
『勉強、頑張って。あんまり遅くならないようにね』
「ありがとう。気を付けるよ。それじゃぁ」
ちょっと間を置いてから電話を切った。今日は朝急いでいてボードに予定を書いてくるのを忘れてしまったのだ。この事を忘れたまま遅くに帰ってたらと思うと背筋がぞっとする。きっと一時間くらい正座させられて京にぃお説教が待っていたに違いない。
思い出してよかったと思いながら、図書館に入った。



 

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