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「へぇ、そんなことがあったの」
「せんせいなら、答えてくださると思ったんですけど」
「まぁ、琥太にぃだしね。知ってる?琥太にぃって恋人いないんだよ」
意外、と言って名前ちゃんがくすりと笑った。
彼女はこの学園にただ一人の女の子だ。だけど彼女はあの子のようにマドンナとは持て囃されなかった。深遠よりもずっと深いところを見ているような、黒色の目は人を遠ざけた。話してみれば案外普通の子なのだけれど、一人の時の彼女はただ遠くを見ていて、まるで周り全てを拒絶するみたいに。それがミステリアスでいい、なんて言っている生徒もいるけど、若いよね。きっと人の上辺しか見てないんだろう。

「水嶋先生は、恋ってなんだと思いますか?」

「さぁ?どうだろう。恋なんて十人居れば十通りの答えがあると思うけど。名前ちゃんはなんだと思うの?」

「……先生は意地悪です」

あぁ。すねてしまったみたい。名前ちゃんは少し唇を突き出して、そっぽを向いてしまう。こういうところは年相応で、素直に可愛いと思う。

琥太にぃは名前ちゃんが分からないと言うけど、僕はそうでもないと思う。そう思うのはきっと琥太にぃが彼女をよく見てないからそう思うんだ。彼女だって年相応にはしゃぐし、泣いたり笑ったりせわしない。
彼女は、普通の女の子だ。楽しいことがあれば笑うし、人の失言を逆手に取ってからかうくらいはする。


彼女の視線を追い掛けると、外で生徒たちに混じって遊ぶ陽日先生が見えた。

「好きってどういうことなんでしょう」

蒼白な顔をして彼女は大変なことを打ち明けるように言った。まるでそれがとてもおかしいことであると言うみたいに、とても辛そうな顔を彼女はする。『好き』が分からないのは、ただ恋をしたことがないだけだ。好きという感覚はとても複雑だ。一個人としての好きと、男としての好きはまったく違う。例えば『一個人としての好き』というのは簡単に言えば様々なものに対する『好み』だ。対して『男(もしくは女)としての好き』というのはとても大きい。時としてそれは人の人生さえ動かしてしまう。
「…告白でもされたの?」
びくりと名前ちゃんの肩が揺れた。
適当に言ってみたんだけど、きっとそうなんだろう。さっきは人を遠ざけたなんて言ったけど、実際には遠巻きに見られているだけだ。彼女に好意を持っている男は少なくはない。中身ともかく、外見はとても美人だ。黒くて長い髪に陶器のように白い肌。小さな唇も、出るとこは出て、きゅと引き締まった細い肢体も、庇護欲を掻き立てられる。

「ふぅん…なんて答えたの?」

彼女は首を静かに振って、それから俯いて消え入りそうな声でまだですと言った。

「そっか。ま、それでもいいんじゃない?僕だったら早めに答えが欲しいけど、分からないんじゃ仕方ないもん」
「そういうことは、したくないです」
「じゃあこういうのはどう?」
僕は屈んで彼女にそっと耳打ちした。






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テーマ「人外ファンタジー」
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