03



段々と暮れていく空を見上げて、はぁと息を吐く。夏はあっという間に去ってしまって、半袖だと夕方は肌寒かった。
去年の夏の終わりにお祖母ちゃんが急逝した。お祖母ちゃんは私のただ一人の家族と呼べるひとだった。
仕事ばかりの父と教育熱心な母。父は仕事ばかりで家庭を振り返らない人で、母はその寂しさを紛らわそうとして教育熱心になったんだと思う。この学園を受験するときには随分大喧嘩をした。今も母は納得していない。
疲れたとき、寂しいときにそばにいてくれたのはお祖母ちゃんだった。楽しい遊びを教えてくれたのも。夏休みはクラスメイトたちみたいにどこにもいけなくたって満足だった。お祖母ちゃんといろんな話をしたり、古い遊びをするのが、何より楽しかった。お祖母ちゃんは私の唯一の味方で、唯一の家族だった。
そんなお祖母ちゃんが急逝した。その事を私はいまだに信じられないでいる。今年の夏に帰省したときだって、玄関を開けてただいまと言えば、またお祖母ちゃんの声が聞こえるような気がしていた。死んだなんて嘘では本当は生きているんじゃないかって、そう思いたい。



「名字さん!今、時間あるかな」

 寮に入る手前で声をかけられた。誰だろう。ネクタイの色が同じだから同じ学年の人だ。見たことはあるけど思い出せなくて黙っていると、彼はそんなに時間は取らないからと少し焦ったように言った。頷くと彼はホッとしたように肩を撫で下ろした。勢い良くお辞儀して私に封筒を突き出した。


「名字さんが好きです!」



私と周りの人との間には薄い白線がひかれている。学園で唯一のオンナノコだからと、少し間を空けられてしまっている。オンナノコだから職員寮だし、体育やいろんなことが周りとは別だ。重いものなんてまわりが持たせてくれない。名字さんはオンナノコだから。なんて言って荷物をさらってしまう。オンナノコであることはそんなに特別なことだろうか。酷いときには先生に色目使ってんだろ、なんて言われたこともある。私、そんなことしないのに。まわりとうまく打ち解けられなくて、よく保健室に通うようになった。それがまた誤解を招いたらしい。

手紙を受け取った。表には右上がり力強い字で名字名前さんへと書いてあった。


「ありがとう。でも、その返事はまた今度でもいいかな?」
「う、うん!いつでもいいよ。待っているから!」


ぱっと顔を上げて、へにゃりと彼が笑った。思い出した。遠野くんだ。
告白されるだなんて初めての経験で戸惑っていると、彼の方から、じゃぁ、なんて言って去っていってしまった。

部屋に帰って、荷物を置いて部屋着に着替えた。机の上に置いた白い封筒を手にとって、封を切った。手紙を読む。



私と入れ違いに卒業していった夜久月子先輩を知る人たちは、私と彼女とは月とスッポンだと言った。夜久先輩は、努力家でちょっとドジで料理が壊滅的に下手くそで、でもよく笑っていて率先して馴染もうとしていたのだそうだ。内側にこもる私とは大違いだと、木之瀬先輩は言った。

『名前はもっと外を見たほうがいいよ』


知らないよ、そんなこと言われたって。私はこうして自分を守るだけで手一杯だ。







[] | []



「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -