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ぼつにしたやつ
2014/08/25 19:06



ここはまるで深い海の底だ。凍えてしまいそうな程に寒く、水面はどこまでも遠い。重く水が絡みついて、呼吸さえもままならない。このままでは溺れ死んでしまいそうだ。ごぽり、と口から空気がもれた。天上に向かっていく泡を見上げながら、私はそっと目を閉じた。まだここで眠っていたかった。





誰かに揺すられて目を覚ました。カーテンの隙間から朝日が射し込んでいて眩しくて、布団を頭までかぶる。まだ眠い。起きろと少し掠れた声と共にまた揺すられて、苛立ち混じりに叩き落とした。はぁとため息が聞こえて、ため息をつきたいのはこっちだとひとりごちた。だいたい寝たのは夜がだいぶ更けてからだった。なのになんでこんな早くに起きなくちゃいけないんだ。

「起きないと遅刻するぞ」
「……こーくん私の代わりに行ってきてよ」
「馬鹿言ってないで起きろ



渋々起き上がって、ベッドから下りる。こーくんはくしゃりと笑って、私の頭を撫でた。子供扱いみたいでむっとして唇を尖らせる。私自身こーくんより年齢が下であることとと童顔なのが手伝ってか、こーくんは何かとつけてわたしの頭を撫でる。私はそれが不満で、その度に抗議をするのだけどするりと交わされてしまう。こーくんを睨むと思いのほか優しく微笑む瞳とと目が合って、恥ずかしくなって俯いた。
こーくんは私のいとこのお兄さんだ。私より四つ年上で、公安局刑事課1係で監視官という仕事をしている。カッコ良くて頭もいい、私の自慢のお兄さんだ。こーくんが私の初恋の人なのは内緒だ。今も大好きだけど。

 「おはよう、こーくん」 
「おはよう、#名前#」


ベッドから出た後は慌ただしい。今日は集会があるからいつもより登校する時間が少し早かった。ローファーを履いて鞄を持って振り返る。こーくんは今日は遅番でゆっくりと珈琲を飲んでいた。
「じゃ、行ってくるねこーくん」
「気をつけてな」
「うん!」





『……悪いな』
「しょーがないよ、仕事なんでしょ」
『埋め合わせは今度する』
「いーよ別に。それより怪我とかしないでよ。気をつけてね」
『おう。お前もちゃんと飯食ってから寝ろよ』
「うん。お仕事頑張ってね」
向こうが切ったのを確認してから端末を放り投げてベッドに寝転んだ。
今日は二人で出かけるはずだったのに、事件が発生したためにパアになってしまった。仕事なんだから仕方ないのはわかるけど、それでも気分は落ち込む。きっと今晩は帰ってこないんだろうなぁ。はぁ、とため息をつく。
起き上がってなんとはなしにネットサーフィンをしていると、ある事件についての記事が目に付いた。記事にざっと目を通して、戦慄した。なんておぞましい事件だろう。吐き気を催して、トイレに駆け込んだ。
たぶんこーくんはこの事件の捜査をしてるんだろう。直感的にそう思った。こーくんはどんな思いで事件の捜査にあたっているのだろうか。帰ってきたら、いつもより労ろう。疲れて帰ってくるだろうこーくんを想像したら、少し気分が楽になった。




あれからいくらか経ったけど、まだあの事件は解決していない。こーくんは泊りがけで捜査をしている。おかげでここ最近はこーくんの顔も見てないし、あまり声も聞いてなかった。少し前はこーくんが起こしてくれていたのに、最近は目覚ましの音で目が覚める。はやく事件が解決すればいいのに。時々する電話越しのこーくんの声は心なしか疲弊しているようで、心配をしている。つい先日にもまた事件があったばかりだ。はやく犯人捕まらないかなぁ。はぁ。ため息をついた。





朝、こーくんの声で目が覚めた。おはようというとおそようと返された。慌てて起き上がって時間を確認するともうすぐお昼だった。遅刻!と慌てる私を見てこーくんが笑う。
――ばか、今日は祝日だ。
――へ?よかったぁ……遅刻かと思ったよ


こーくんの笑顔と声がどんどん遠ざかっていく。待ってと手を伸ばしても届かない。視界がぐにゃりと曲がって、次の瞬間には私は知らない場所にいた。白い壁、規則正しく鳴る電子音。一体ここはどこだろう。しばらくボーっとしていると思い出してきた。ここは病院で私は長いこと入院をしているのだ。壁にかけられたカレンダーは記憶の日付とは大きく異なっていた。また夢を見ていたのだろうか。いい加減滑稽を通り過ぎて自分が憐れに思える。
あれが夢だという自覚はある。だけど私はそれでも構わなかった。あの頃のこーくんに会えるならそれでよかった。
眠れば必ず夢を見た。
まだこーくんが潜在犯でもなく、執行官でもでもなかったころの夢だ。大学への進学をきっかけにこーくんと同居を始めた。大学は家からは遠かったし、大好きなこーくんと一緒に暮らせて幸せだった。 いろんなこーくんを知った。知る度にもっと好きになった。だけどある日、こーくんは変わった。気づいたらこーくんは私の知らないこーくんになっていた。ううん。あれはきっとこーくんの皮をかぶった妖怪なんだ。マキシマとかいう人間ばかりを追いかけて。
コンコンとノックがしてどうぞと私は答えた。久しぶりに喋ったせいなのか声はひどく嗄れていた。
ドアが開いてコートを着た男が入ってきた。見たことない人だ。私は首を傾げた。男は私を見て気味悪そうに眉を顰めた。





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