彼女のドッペルとゲンガー きらいよ、だいっきらい。私のまえからいなくなって。それは本物の言葉だけれど、けっして真実には程遠い。本物の嘘が転がるように、嘘が真実に成り得るように、私はいつだって本物を落とす。真実から遠ざかる。置いてけぼりの感情なんて嫌いだわ。もうやめて本当にやめてこれ以上嫌いにさせないで来ないでこっちに来ないで、お願いだから私を、これ以上。 殺さないで。 親愛、友愛、情愛、恋愛。愛のつくもの。かわいそうなそれら。私はかわいそうにはなりたくない。私はこの心と矜持を殺されたくない。私はあなたに墜ちたくない。 「お前は女だよ」 私はかわいそうじゃない。私はかわいそうにはなりたくない。 「あなたは女です」 私は女じゃない。私は女にはなりたくない。 女なんてかわいそうだ。スカートを穿かなければならない。髪を伸ばして、綺麗に梳かして、手入れをして、きらきら飾らせて、翻して、笑ってなければならない。 「お前、男尊女卑かよ? いまどき流行らねえっつーのそんなの」 けせせ、とあいつが笑う。 「バカ云わないで。性別の違いに尊卑なんてないわ」 「じゃあそんな葛藤いらねえじゃん」 「うるさい」 優しく触らないで。笑わないで。 私を女みたいに扱わないで。 「お前は別に、お前だよ。エリザ」 「ちがう、私は男だった」 「こだわる必要なんかねえよ」 「男のあんたに言われたくない」 「なあなんでそんなに、」 男にこだわるんだよ。 私はあなたを愛したくない。私はあなたに墜ちたくない。 スカートを翻して微笑む私になど、微笑まれたくない。 女の愛情で、劣情で、あなたを愛したくなどない。 私は、私とあなたを、汚したくない。 2013/01/11 |