元 か ら 宝 石







 土地は不毛であるべきか否か。耕されるべきであるか、否か。
 原石は発掘されるべきか否か。磨かれて輝きを放ち、宝石足りえるべき、か。
 際限のない問い。

「なんの小説?」

 興味があるふりの嘘の言葉がかけられた。べつになんでもないですよ、なんでもなくはないでしょ今本読んでるでしょ! ああもうめんどくさい。×××って本ですよ。
「ふーん」
 やっぱり全然興味ないじゃないですか殴りますよ。
「そんな本いいから外へ行こうよ」
 嫌です。
「なんで」
 嫌なものは嫌です。
「黒子っちいみわかんねーッスよ」
 君の方が意味分かんないです。

 分かる意味が、この世にはあるのだろうか。あっただろうか。
 それが幸いだったなら、意味に価値はなくなるんじゃないだろうか。

「黄瀬くんは、」ボクは虚ろに呆けて、アイボリーもくすんでしまった頁を閉じる。紙の間に間に篭められた、年月という名のかび臭さが 鼻先を掠めた。
「原石は見つけられるべきだと思いますか」
「げんせき?」
 あの、鉱山とかに埋まってるやつッスか。そうですそれです。
「えー、別に、どっちでも」
 だろうと思いました。
「まあ自分が安く手に入れられるんなら、じゃんじゃか発掘してもらいたいかも」
 そうですか。予想どおりのどうでもいい感じの答えですね。
「あとは」
 もういいんでバニラシェイク買って来てくれませんか。
「発掘してくれる人による、かも」

 流し目で。
 下瞼から流れる上向きの美しい曲線が、流線が、彼の細めた目尻に畏怖を宿して。
 吊り上がった口角が、筋肉の正しい弧の描き方を示す。
 それは美しさだったけれど、それは禍々しさでもあった。肉親の血縁より遠く、赤の他人の口付けより遥かに近かった。いびつさが語る、そういう種類の、畏怖に近いそれの、貶める笑い方。
いちばん尊い嫌悪の笑い方。

 ボクが大嫌いな笑い方。

「黒子っちに発掘されるようなら、その原石になったっていいかもなあ、俺」

 長い指が伸びてきた。それはしなって、ボクの頬に触れた。椅子に座るボクは彼を見上げて、はじめから座るつもりのない彼は、ボクを見下ろしている。ただ彼の逆光で白熱灯の灯りさえもが煌々と、黄色く、白く真円に、広がって、彼の顔は影になる。整った目鼻立ちに整った陰影が墜ちる。レンブラントの筆先をも、彼はその身で模してしまうらしかった。


「そしたら俺、もっと幸せになれたかもなあ」

 その咽を噛み千切ろうと思った。






































2013.07.07
10年に1人の天才に言われたって嫌味なだけ
それを分かって言ってる黄瀬くんと
それを更に理解している黒子っちの攻防

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