加糖様◆15万HITフリー
線香花火が落ちる時
長かった夏が終わった。
季節変わり、商品の入れ替えに伴う売れ残りの半額の花火を新八が買い占めて来て、万事屋トリオと姉御とで花火をすることとなった。
9月に入ってからどっと暑さは気づかぬうちに逃げて行ったようで、夜は半袖を着ていても汗をかくことなく、少し涼しく感じる。
河川敷に着いた私は、水を張ったバケツの横っちょで、しゃがんだ。
辺りは真っ暗になっていて、花火をするのには丁度いい暗さだ。
「あれ、神楽ちゃんやらないの?あんなに花火楽しみにしてたのに」
みんな花火をもってスタンバっているのに、ただ一人花火を持っていない私に新八は怪訝そうに声をかけた。
「私、やっぱりいいネ。眺めているだけで楽しいアルから」
「そっか。じゃあ先にやってるね」
新八はそう言うと持ってきたチャッカマンでロウソクに火をつけて、その火で最初の花火に火移した。
銀ちゃんと姉御はそんな私を見て、何も言わなかった。
シュワシュワーや、バチバチッっと音を立てて色とりどりに燃え始めた花火。
私の目にも鮮やかにうつっているはずなのに、そうじゃないように思った。
新八が大量に買い込んできた花火の中から自分専用のを確保する程、確かに花火は楽しみにしていた。
でも、いざ花火をする準備をしていた時に本当に夏の終焉を感じて、それらは消えてなくなった。
私の心にぽっかり穴があいたようだった。
アイツのことを好きだと意識した夏の初め、私は淡い期待を抱いていたけど、ひと夏の思い出もなくいつの間にか夏が終わってしまった。
アイツとそうなることは、叶うことじゃなかったのかな。
望んでしまうのはダメだったのかな。
みんなが終わった花火をバケツに投げ込んでいくのを見ながらそう思う。
塞ぎ始めた私の心と裏腹に輝く花火。
訂正、そんな心境でもやっぱり花火はキレイだと思った。
野太い声が聞こえ、何かと思えば、ゴリが姉御のそばにやってきていた。
ゴリはいつも通り姉御を褒め称えて、あたかも自然に私たちの輪に入って溶け込もうとしていた。
そこからごっだごっだといつものパターンに入る。
ゴリとか姉御の台詞はいつもすぎて私はBGMにしか聞こえなかった。
今、ごっさ憂鬱な気分でなんか他人の言葉なんて頭に入ってこない。
ただ、目の前で豚のの丸焼きのように手足を縛られ棒に吊るされ、火あぶりならぬ、花火あぶりになっているゴリがいるのだけ分かった。
「ゴリはこれでも幸せアルな…」
私は、ふぅっとため息と頬杖をついたら、ふわりと隣に感じるよく知った気配を感じた。
「ちわー。ゴリ…いや近藤さんが豚の丸焼きみたいに火あぶりになってないですかねィ?」
くっきりはっきりと見えたアイツの姿。
花火だけの照明で、コントラストが強かった。
反射的に見上げると視線が合う。
夏の暑さに溶けてなくなってた私の淡い期待は、燃え上がるような想いで再び結晶と化した。
バクバクと高鳴る胸。
心臓が飛び出しそうな口をセーブしながら、私は言った。
「お前、ゴリを助けなくてもいいのか?」
「そうゴリな…」
アイツはゴリを助けるわけでもなく、”神楽専用”と書いて私の隣にキープしていた花火を沖田は指さした。
「チャイナ、花火やらねーの?」
「…クソサドには関係ないダロ」
「関係ないか…」
本当は花火をやりたい。
できれば、一緒にやりたい。
ちゃんと夏の思い出を作りたい。
けど口から出た言葉は正反対だった。
もやもやとした気持ちで俯いていたら、アイツは私の花火を抱えてる。
「じゃ、有り難く俺が貰ってやらァ」
アイツは、それを持って歩き始める。
「ちょ…ちょっと待つアルっ!」
ずっとしゃがんてたから、追いかけようと立ち上がると足がしびれた。
そんな足を引きずってアイツを追いかけた。
「返すアルっ!」
私がアイツに追いついたというより、アイツは、私が自分のところに来るのを待っていた。
アイツの手にある花火はひょいひょいと右上、左上と私の頭上にかかげる。
いくらジャンプしても身長差でどうしても届かなかった。
アイツは自分の頭の上に花火を乗っけるとこう言った。
「花火やろーぜ。」
アイツは無邪気に笑っていた。
「うん!」
私も無邪気に笑えた。
それから、さっきの追いかけごっこをして銀ちゃんたちから離れたところで私とアイツの二人っきりの花火が始まった。
さっきとは、うってかわって心が踊る。
まるで私の心がキラキラと輝いてるように花火も輝いていた。
終わってしまった夏をもう一回やり直したい。
花火の火をお互いに移しながら、次へ次へと花火を楽しんだ。
そうして、ふと気がついた。
この花火のように私の気持ちもアイツに移したい、な。
派手に光る花火はやりつくして、残るは線香花火だけになった。
二人ともしゃがんで、柔らかい火に和む。
静かに時は流れ、もう残りの花火は私が持っているのだけになっていた。
この花火が終わっちゃうと楽しい時が終わっちゃう。
私はとても悲しくなって、うつむき、ぐっとあがってくる涙をこらえた。
「なぁ、その花火終わると、こっちから旦那の方は見えるけど、向こうからこっちは見えなくなるな」
驚いて顔を上げた私はアイツを見たら、
ポトン…。
そして、最後の花火の火は落ちた。
光源を失って一気に視界は暗くなる。
時が止まったかのように、私とアイツは固まった。
キョロキョロとして、目が暗闇に慣れてアイツの姿が一応見えたら、私を見てた。
「変アルよ。なんでジロジロ見てるアルか。」
アイツはまだ固まったままだ。
「さては、私のこと好きなんダロ。」
これは、いつものノリのジョークのつもりだったのに通じないみたいだ。
まだアイツは固まったままで、なんか気まずい。
私がパンパンと足についた土を払い立ち上がって銀ちゃんたちの方へ戻ろうとした時に、後ろから手を引かれ、抱きしめられた。
「好きに決まってんだろ…っ!」
アイツの胸の中に収まって、耳元で力強く伝えられた言葉に胸がひどく締め付けられる。さっきこらえてた涙が戻ってきて、そのまま零れてしまった。
あふれた気持ちは、もう止まりそうにない。
「私も好きだったアル…好きだったアル。お前のこと好きって気がついてからずっと夏の間お前に好きって言おうと思ってたネ。でもできないままで夏が終わっちゃって…終わる夏と一緒にどんどんどこか遠いところにお前が行っちゃいそうで…っ!」
とめどなく流れる涙と一緒に私は強く抱きしめ返した。
ふるふると震える私の身体は優しく撫でられ、落ち着いたころに唇は重なった。そのまま私たちは銀ちゃんに気づかれないように、こっそりその場を離れた。
ピンクのネオンきらめく建物の一室で私たちは一夜を共に過ごした。
ずっと待ち焦がれていた初めての行為は怖いというよりも夢のようだった。
昨日まで、街の中を走っても走っても追いつくことができなかった背中。
向かいあってたのに、届かなかった想い。
欲しかった夏休みの時間。
私たちは取り戻すように何度も何度も身体を重ねた。
総悟が仕事の電話しているのを聞いて、私はまどろみから覚める。
「身体、大丈夫か?」
パタンと携帯を閉じた総悟は、ベッドの中にまだいる私をいたわるように撫でた。
小さく私は頷く。
ひとつになって、迎えた朝、というより昼になっていた。
もうおてんとう様は真上だ。
何も言わず、昨夜あの河川敷から総悟と二人でこっそり抜けてきた。
でも銀ちゃんのことだからすぐに私たちがいなくなったことなんて絶対に悟られている。
銀ちゃんたち心配してるかな。
黙っていなくなったから、怒ってるかな。
私たちのこときっとバレてるよね。
私、悪いことしちゃったのかな…。
私は急に怖くなってきた。「とりあえず安心して帰ればいい…また会おうな」
何もかも分かったような笑顔で総悟はそう言って私を抱きしめた。
仕事があるから総悟とは、名残惜しくもそこで別々にそれぞれのところへと帰った。
総悟の笑顔に背中を押され、私は万事屋へと続く階段を一段一段ゆっくりと登り、恐る恐る戸を開ける。
顔をちらりと覗かせて中へと足を進めた。
「ただいま…アル。」
「おけーり。」
「おかえり、神楽ちゃん」
銀ちゃんたちはいつも通りで、新八に至っては泣いていた。
「良かったね、神楽ちゃん。良かったね…」
そう繰り返し言った新八は5分してからどっかに行った。
なんと分かりやすいヤツだ。
でもまぁ5分も耐えれた新八は偉い。新八が出て行ってから銀ちゃんは私にこう言う。
「アイツなぁ、ああ見えても脆いところあっから、それどーにかできるのお前、神楽だけだぞ」
総悟の温もり、息遣い、脈打つ鼓動、垣間見えた切ない顔。
遮るものなく直に総悟と触れ合った今なら分かる。
明日会う時、とびっきりの笑顔でこう言おう。
「総悟、遊ぼ。」
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"ニッチ"の加糖様より
フリー小説を奪取して参りました!!
楽しそうに花火する2人が
可愛くて仕方ないです^^
しかも2人だけで!!(ここ重要)
それから告白して結ばれるだなんて
ギャー沖神ぅううッ!!
あまりの素敵小説に
即奪取を決めました←
15万HITおめでとうございます!!
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