ガタン、ガタン。電車が揺れる。新しい生活が始まって数日が過ぎた。俺は新社会人となり、つい最近まで使っていた路線では無い電車に乗っている。定期券も変わり乗る時間が少し短くなった。それに制服ではなく、スーツを着込み緩めていたネクタイもぎゅっと締めている。なんだかまだ息苦しい気もするが、少しずつこれから慣れていくのかと思うと何だか少し笑える。
まだ少し新鮮な外の景色を眺める。少し都会から離れた位置にある会社なので、外の風景も木々が前よりも多い。そのせいか車内も人が少なくて快適だ。
全てが新しくなり、今まで普通だった事が普通では無くなった。戸惑いはあったが新しい生活になる喜びの方が大きい。まだまだ、仕事も色々な事を教えてもらっている途中なので今日は何をやるのかと少し期待しながら通勤している節がある。他の友人…、まあ友人でいいだろう。アイツ等も新しい生活になり既に楽しんでいるようだ(昨日、合コンの誘いがあった)。



乗車してから20分、会社の最寄り駅に到着した。やはり朝だと言うのに人は少なく人にもみくちゃにされる事なく駅から出た。ここから15分ほど歩いたところにあるあまり大きくない建物が俺が今月から務める事になった会社だ。
道に植えてある木々から朝日が差し込んでいて見ていてとても清々しい気持ちになる。
その木々が並んだ道に、ある一軒の花屋がある。その前を通るといつも一人の若い女が花を並べている。俺よりも少し上に目える彼女は、いつもとても楽しそうに花を並べている。朝と夕方、少ししか見かける事は無いがいつも花を見つめて楽しそうにしている。この数日、その彼女が気になって仕方が無い。前を通るだけなので話した事なんてある訳もない。それなのにふと彼女の顔が浮かんでしまう。昼休憩中に運悪く、高校の先輩であるカカシの野郎に捕まっり知り合いに良い子いない?と言われた時に顔が浮かんだ時は驚いた。そして今日もまた、その店の前を通る。










「よいしょっと!」



花の入った重そうな容器をどんと置く。
いつもなら横目で見る程度だというのに何故か今日は、気が付いたら声をかけていた。後から考えたら自分でも驚いてしまう。










「すみません。」

「あ、はい!どうかされましたか?」

「あ、あの………もうやって、ますか?ちょっと、……花を買いたいんす…けど。」

「あ、はい!今から開店ですよ!!どうぞ中に入って下さい!どんな花をお求めですか?」

「………え、っと。」

「どなたに贈るんですか?」

「は、母に……。」

「お母様ですか!!親孝行ですか〜、いいですね〜!じゃあ、素敵な花を選ばなければいけませんね!!どんなお花が良いですかね〜!」



買う予定何か無いのに声をかけてしまったので、どうしたら良いのか解らず何だか適当な言葉を並べてしまった。どもるは目線は泳ぐは…、アイツ等には絶対に見られたくない姿だ。恥ずかしすぎる。汚点と言っても良いくらいだ。
そんな少し間違えれば不審者に見えるような奴だというのに彼女は少しも嫌な顔をせず笑顔で接してくれた。それどころか、思いつきで言った母に贈るという言葉を聞いて更に良い笑顔を向けてくれた。今も色々考えながら花を選んでくれている。予想以上の人柄の良さに感謝してしまった。










「ん〜、そうですね〜……あ!鈴蘭なんかどうですか?鈴蘭はですねーフランスでなんですが、5月1日が「スズランの日」とされていて、友人や家族など愛する人や親しい人にスズランを贈る習慣があるんです。そして、贈られた人には幸福が訪れると言われているんですよ〜!だから、お母様に贈るんだったらこの花が最適じゃないかなって思うんですが……どうですかね?」

「…いいっすね、その花。やっぱり、花屋で働いてるだけあって詳しいんすね。」

「え!そ、そんなでもないですよ!!ただ…、お客様が少しでも花に興味を持って下さる手助けが出来たらいいなって…思って少し、勉強を………なっ、何か恥しいですね!!これ、包装してきますっ!!」



自分の言っている事が恥しくなたのか、奥に駆けていく姿が何だか愛らしくて笑ってしまった。…そういえば、女相手に愛らしいなんて思ったのは初めてだ。……うすうす解ってはいたが、その類の話には自分は縁遠いと思っていたので気付かなかった。でも今、自分の胸の内を理解した。理解してしまえば今までの普段とは違う自分の行動も理解できる。
ならば、後は想いを告げるだけだ。驚かれるかもしれないが仕方が無い。告げなければ後悔するのは確実だ。思い立ったら吉日…、なんて言葉もある。だが、伝えるとしてもなんと伝えたらいいだろうか…。考えながらふと店内を見渡してみるとある花が目に留まり昔たまたま何かで見たその花の花言葉を思い出した。自分の記憶力の良さに感謝し、彼女なら絶対に解ってくれるだろうと思い綺麗にラッピングされた花を大事そうに持って駆けてくる彼女を見て、ある花を手に取った。










「お客様!!出来まし……あれ?チューリップですか?それもお買い上げですか?」

「…あぁ。」

「良いですね〜!それは何方に贈られるんですか〜?」

「…アンタに。アンタなら……この花の花言葉、解るだろ?」

「……え、それって……… 。」

「返事、待ってるぜ。」









君に似合う花をさがしてあげよう


(チューリップの花言葉は、)
(『愛の告白』)





++++++――… 。


戯言』様に提出。
駄文で申し訳ないです。

2011/04/08

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