まだ夏の様に暑い日差しの中、男女が汗でしっとりと湿った手を繋ぎながら会話もなく歩く。手だけではなく額からも汗を流している。もう九月に入ったというのに暑さは変わらず、空にも入道雲が大きく出来ている。毎年そうだが、九月に入ろうと暑いものは暑い。八月に負けず劣らずの日差しの強さだ。汗だくになっていてもおかしくは無い。 「ねぇ、何処行くの?こんな日に外でなくても…。」 「いいから着いて来い。」 先ほどから会話もなく歩く黙々と歩いていた二人だが、片方がとうとうその沈黙に耐えきれず話しだす。だが、黙っていろと言わんばかりの相手の返事にまた口を閉ざす。何処に行くのか、何をするのか、何も教えられず歩く彼女は不安感で一杯だった。一緒に歩く彼に限って何か酷い事をされるという事は無いだろうが…、何も解らず着いて行くのは流石に何があるのかと考えずにはいらえなかった。 黙々と歩くこと一時間、着いたのは随分前に彼と二人で訪れた向日葵畑。…が、既に時期的にも向日葵は咲いていない。ピークが過ぎた向日葵畑はとても寂しく見える。過去の記憶では黄色くて大きな花を大空に向かって咲かせていた沢山の向日葵。堂々としたその姿は横に佇む彼を思わせる。前にサクラにそれを言うと笑われてしまった。黄色何てサスケ君には似合わないわって。でも、太陽に背を向けず、いつでも顔を上げている凛とした姿は彼そのものだと思う。 「…昔、ここに来た事…覚えてるか?」 「……うん、奇麗な向日葵がいっぱい咲いてたね。」 手を繋いだまま、二人は向日葵の咲いていない向日葵畑を見る。汗だけが流れ続ける。額から頬、顎へと汗はつたい地面に染みを作る。立っているだけなのに汗は流れる。止まらない。それでも二人はその場を動こうとはしない。汗を拭う事もせず、動くいても呼吸をするたびに上下する胸と瞼くらい。傍から見たらおかしな姿だろう。一輪も花の咲いていない向日葵畑を眺め続けているのだから。 「…あれから、何年たった?」 「……わかんない。…もう、思い出せないや。」 ふと隣の彼を見る。すると彼も自信の隣で汗を流している彼女を見る。何故か切なそうは顔で彼は彼女と繋いでいた手をそっと離した。汗ばんでいた筈の手はもう手汗一つかいていなかった。 「……どうしたの?」 離された手をもう一度繋ごうとするが彼は繋がせない様に彼女の手をそっと下ろす。何故だろうか。こんなに暑い筈なのに彼の手は冷たくて気持ちが良い。 その時に気づいた、彼は汗など流していない事に。よく見ると顔色も悪い。そこで彼女ははっとして彼に詰め寄る。 「顔色悪いよ?具合でも悪いの!?」 具合が悪いのにこんなとこまで来たのではないかと焦る彼女だが、彼は小さく首を横に振り小さく口を開いた。だが、彼女の耳にはその小さな声は入らず宙に溶けた。 「………え?」 「…もう、前に進め。」 「…なん、のこと?」 「……もう、五年も経った。」 「…だから、何の話し?」 「……もう、前を見て生きろ。振り返るな、俺を見るな。光に背を向けて涙を流すな。」 「何言ってるの?…ねぇ、サスケ?」 怒っている様で、怒っていない。彼の顔は怒りより悲しみの方が強くて見ていたくなくなる。目を背けたい。でも、目を離せない。彼の目はそれを許していないから。なんで、どうして、なんのはなし、幾度もそう叫ぶが彼は悔しそうに、そして哀しそうに何度も言う。 『前に進め。』 何処に進めと言うのか、立ち止っているつもりなんてない彼女は顔を歪ませ未だ哀しそうな顔をしている彼に今日一番の大きな声で叫ぶ。 「サスケの言ってる事わかんない!!私は立ち止まったりしてない!!私はいつもサスケを真っ直ぐに見つめてる!!」 「……もう、それは前を向いている事にはならないんだよ。」 「………何で?だってサスケはいつでも凛と前を見つめて立っていたじゃない?いつでも私を真っ直ぐ導いてくれたじゃない!!」 「俺はもう、お前の前にはいないんだよ。俺はもう、お前の後ろにいるんだよ。お前と同じように、前に進む事が出来ないんだよ。」 そう言うと彼は彼女の肩に手を置き下を向いた顔を無理やり上に向けさせた。目と目を合わせ、彼は力強く彼女に伝えたい言葉を紡ぐ。 「もう、俺は死んでるんだよ!!五年前の、あの日に!!」 そんなの嘘だよ 向日葵畑にいるのは涙を流している彼女だけ。 ++++++++++++--… 。 なんだこれ |