あの後はそのまま通常業務を終え、定時で上がれたので急いで桃太郎にメールをして今日は飲みに行くことにした。あのまま鬼灯の隣の部屋に戻るなんて気が気じゃない、変に意識してしまって休めやしない。少しでもアルコールを入れて今日は習慣のノートも休んで寝てしまおう。それに桃太郎の愚痴でも聞いていれば少しは意識しないですむかもしれない。誘いのメールに喜んでと答えてくれた桃太郎にホッとして待ち合わせの居酒屋で先に待つことに。



「あ、桃太郎さん!こっちこっち!」

「あぁ!待たせちゃってごめんね、雪子さん!」

「ううん!急に誘ったの私だし、今日は奢らせて?」

「いやいや!そんな女性に出させるなんて…。」

「大丈夫!これでも出世したんだよー?大丈夫だから!ね?」



申し訳なさそうにそれじゃあと頷いてくれたのでメニューを開く、各々飲みたいものを頼み乾杯とグラスをカチンと鳴らす。気を張らなくていい雰囲気に口もアルコールも回りが早い、桃太郎も愚痴がたまっていたようであれよあれよと文句が出てくる。軽率な態度をどうにかしてほしいやら毎日毎日女性と鉢合わせする自分の身にもなってほしいやら、メールでも愚痴っていたが実際に聞くと相当ストレスがたまっていることが分かる。お酒も煽るように飲んでいるので机の上には空のグラスがどんどん積まれていく。



「雪子さんは愚痴とか無いの?なんだか俺ばかり愚痴っちゃってるみたいで…。」

「え?私?んー…と、特には?」

「あ!何か含みのある返し!何だよー、何かあるんじゃないのー?」



意外と絡み酒タイプだったのかと適当にあしらう、流石にアレは説明しづらいし言っていいような話ではない気がする。それに鬼灯が言うと冗談なのか本気なのか全く分からない。真意が掴めないのに第三者に話すなんてそんな軽率な行動は出来ない。ただ、アルコールは飲めば回るものなのでうっかり飲みすぎて話してしまうと危ないなと少しセーブする。あまり飲みすぎては気が緩みすぎてポロポロと話してしまいそうだ。



「雪子さん、進んでないんじゃない?大丈夫?」

「大丈夫だよー!明日も仕事だからさ、少し押さえておこうかなって!」



嘘は言ってない、明日も仕事をしなければいけないのは本当だし影響があっては鬼灯に怒られてしまう。お酒も美味しいがおつまみも美味しいのでお腹が膨れてきてとても気持ちのいい睡魔に瞼が落ちたり持ち直したりと忙しい。楽しいお喋りの時間はあっという間に過ぎていく。



「雪子さん、大丈夫?眠そうだけど…そろそろ帰る?」

「んー、そーだね〜。そろそろ帰ろうかな?明日も早いし。」



お会計を済ませご馳走さまですと手をふってくれる桃太郎に手を振り替えして帰路につく。送ろうかと言ってくれたが断った。少しふわふわした足取りで空を見上げる、夜風が気持ちいいなと自然と頬が緩んでしまう。気が付いたら鬼灯の事を考えないでただただ楽しく飲んでいたなと桃太郎に感謝する。やはり、気兼ねせず友人と飲むのは楽しい。
空に向けていた顔を前に戻すと見慣れた姿が目に入った。



「……あれ?鬼灯様?」

「女性がこんな時間まで飲み歩くのは感心しませんね。しかも、こんなにふらつくまで飲むだなんて。」

「えっと…鬼灯様?」



目があったかと思うとやや強引に手を捕まれ引っ張るように歩き出した鬼灯に戸惑う。何故ここに、そんな言葉も何故か喉に張り付いたように出てこない。なすがままに手を引かれ歩く。暫く無言のまま歩くと突然ぴたりと鬼灯の足が止まる。反応しきれず背中にぶつかってしまった。



「ご、ごめんなさい。…どうしました?」

「………いえ、何でもありません。」



何か言いたそうだったが何でもないと言い切られまた手を引かれ歩く。今日の鬼灯は不思議なことばかりするなと思ったが、酔いの回った頭ではそれ以上の事は考えられずその日はそのまま部屋まで送ってもらいベットに潜り込んだ。


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