あの後、彼は無言で立ち去って行った。何処の誰なのかも、どの学年なのかも解らない。御礼を言う間も無くすーっと消えてしまった。水のお礼を言いたいと思っているのだが生憎、私の人脈の少なさと言ったら笑えもしない程だ。そんな人脈では彼を見付けだす事なんて出来やしない。
ただ、今の私はそれどころではない。何故?そんな事、私が聞きたい。何故、私は今日もアノ教室に足を運ばなければいけないのだろうか?何故、私がこんな仕打ちを受けなければいけないのだろうか?私に非は一つも無いはずだ。それなのに、なんでっ……。
嫌な事を考えていると自然と足が速くなる。そのせいか、予想以上に早く教室の前にまで来てしまった。災厄だ。帰りたい。
だが、出席しないと卒業が危うくなる…。嫌な気持ちを押し込んで私は、教室の戸に手を掛けた。














戸を開けた瞬間、教室の空気がすっと嫌なモノに切り替わった。…やっぱり、私は来るべきではなかった。







「え?良く来れたね〜!伊井沢さ〜ん!!」

「ちょ!?私、来ない方に賭けてたのに〜!!1000円損したじゃなぁーい!!どうしてくれんのよ!!」

「お前、それは自業自得だから!だから、諦めて俺に1000円寄こしなさーい!」

「ひっど〜い!!銀時くぅ〜ん!!」



あーあ、朝からこんな汚い言葉ばかりが行き交う空間にいなければいけないなんて…。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。そう頭の中で連呼したところで事態が改善される事は無い。寧ろ、悪化している気がするのは気のせいだろうか?教室の後ろの席である彼の席を中心に溜まっているのが今、汚い言葉を発した奴等だ。何も触れないでいてくれれば私もその事は忘れてこのまま卒業したのに…。何故、そっとしておいてくれないんだ。そんなに、私を笑い物にしたいのだろうか?そんなに、人を見下したいのだろうか?あいつ等の考えなんていくら考えても解りもしないだろうけど、何故?どうして?そう思ってしまう。
こんなに空気の悪いところに入れるほど、私は図太くない。私は何も言わず、そのまま教室を立ち去った。






結局、私は屋上に来た。昨日は涙が出たが今日は悲しみを超えてしまっているのか涙が出ない。なんだか冷静にこれからの事を考えている。さて、これからどうしよう。親とは別に住んでいるのでさっさと家に帰ってもいいのだがアパートの大家さんが親の知り合いで何か変な事があると連絡を入れられてしまうのだ。それは少し…、かなり面倒くさい。なのでもう少しの間はどうにか時間を潰したい…。何か時間を潰せる物はないかと考えた末、ケータイを開くが今はケータイを弄る様な気分ではない。その他に時間を潰せる様な物は持っていないので少し汚いかなとは思ったが屋上に寝そべった。登校したままの格好だったのでマフラーと手袋は付けているのだが足が寒い…。そういえば、鞄にハンカチが入っていた様な気がして鞄を漁る。ガサゴソと鞄を漁っているとハンカチと嬉しい事にも飴が入っていた。私はすぐに飴を口に放り込み、気休め程度にハンカチを膝にかけ再度寝そべった。
こうやってじっとしていると意外と日差しが暖かく気持ちがいい。…まあ、風はまだ冬の風だが。次第に瞼が重くなり…、私は目を閉じた。













ふと眼を覚ますと身体の痛みに一瞬うっと声を漏らす。流石に屋上の固いコンクリートの上で寝ていたのは宜しくなかった。どうにか痛みを和らげようと横を向いた瞬間だった。私は息を飲んだ。





02.どうして彼が!?

(何?なんで隣で寝て……えぇ!!?)
(つか、何で隣で寝てるの!!)
 


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