愛しています…―― 。

そう伝えるだけで罪になる事がある。
ただただ己の胸の内を伝えるだけで今まであった物を無くしてしまう時がある。まさに今、私はその時を迎えている。











「ほら!来たよ!!立場を弁えてない奴がぁ〜!!」

「あはは!銀時くぅ〜ん!!来ちゃったよ〜☆」



朝、教室に入ると聞こえてきた女の甲高い声…。黒板を見つめるクラスメート達。そして、煩い女の隣にいる坂田銀時君。…私の、片思いの相手。
銀時君を朝から見れた事は嬉しいが、普段は話した事もないクラスメートによく解らないが何かの話題に出されている事に嫌悪感を抱き眉間に自然と皺が寄った。いったいこんな朝っぱらから、何だというのだろうか。










「伊井沢さぁ〜ん!銀時君の事、好きなんだって〜?」



……あぁ、そうゆう事か。
瞬時に事態を理解した私は、黒板に群がるクラスメートを押しのけ黒板の前に出る。そこにあるのは案の定、今時珍しいだろうにと自分でも思ったラブレター。相手は言わずとも解るであろう、坂田銀時君だ。昨日の放課後、恥ずかしく思いながらも意を決して彼の下駄箱に押し込んだ物だ。
それが故に…、コレは彼しか知りえぬ物。だが、それは今…ココにある。何故ココにあるのか…、そんな事直ぐ解った。









「伊井沢…、俺お前の事タイプじゃねーから悪いな。」



彼が今、彼の横で人を馬鹿にした様に笑う女とグルだから…、それ以外に何が考えられるって言うんだ。だってほら、見てよ…あの顔。何とも思ってないようなフリして心の中では笑ってる…、そんな顔をしている。普段の死んだ魚の様な眼が更に、更に、淀んでいる。











気持ち悪い…―― 。


何故、私はこんな奴を好いていたのか…と。










あぁ、世界が歪んでいる…… 。














「あ!ちょっと待ちなさいよ!!」



走った。無意識だった。気が付いたら私は教室を飛び出した。










『馬鹿な女…、身の程を弁えろよな。』








最後の言葉に知らんフリをして… 。















ただただ、闇雲に走って気が付いたら普段なら足を向ける筈も無い屋上に来ていた。

息が荒い、胸が痛い、手足が痺れる、心がイタイ。








「ハァ…ハァ…ハッ、うっ……。」



屋上に出て空を見上げると涙が溢れた。でも、悔しくて悔しくて声を殺して泣いた。ボロボロと溢れ出る涙を止める術等ありはしない。『悔しい』『哀しい』今、私の中ではこの二つの言葉がグチャグチャと絡まり、混ざり、訳の解らない感情が支配する。それでも声は殺した。いや、途中からは出てこなかった。涙だけが無駄に流れ続けた。身体中の水分が涙となり、そのうち脱水症状にでもなってしまうのではないかと思わんばかりに泣いた。
そして、しばらくすると身体中の水分が尽きたのかの様に涙は枯れた。









「 オイ。 」



涙を流し過ぎて痛む目で空を見上げていたら突然、声を掛けられた。










「 ん。 」



無言で水を差しだす彼は何も言わず、ふわりと頭を撫でてくれた…。








01.隻眼の彼


(渡された水は飲みかけで、少し戸惑ってから口を付けた。)


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