2月14日、日本の女性陣が意中の男性に思いを伝えたり既に結ばれた相手に再度愛情を示すためにチョコを送る日である。この日の為に年明け直ぐに今年一番の気合を使ってしまう女性がいるほどの一大イベントだ。そんな一大イベントのためにスーパーやデパート、雑貨を扱う店に至るまでが一月の半ばからバレンタイン用のディスプレイに切り替え世の女性を後押ししている。…まあ、後押ししているのは売り上げだがそこはイベントに免じで深く考えてはいけない。お菓子メーカーの策略だなんて話はもう聞き慣れた話だろう、イベント事に邪推は厳禁だ。



「鬼灯様はバレンタイン、沢山チョコを頂くんでしょうね〜。」

「言っておきますが私はチョコを従業員から貰うことは無いですよ。賄賂になってはいけませんからね。」

「え?貰わないんですか?…鬼灯様位の役職に就くとイベント事もまともに楽しめないんですね…。」



義理チョコでも渡そうと思っていたが今の世の中は色々難しいようだ。そういえば、八寒でも謎の出世をした先輩がいたような…いや止めよう。彼女の実力かもしれないし深く考えてはいけない気がする。
可愛いラッピングを施された色とりどりのチョコは見ていてとても楽しいので正直、もう鬼灯にも買ってしまったのだがこれは自分で食べようと思った。まあ、最近は自分チョコなんてものも流行ってるそうだし御褒美だと思えば嬉しいものだ。



「もらえないからと言って楽しめないわけではないですよ。」

「……そうなんですか?」

「ええ、それにバレンタインに女性からチョコを渡すなんて文化は日本だけです。海外では男性から女性にプレゼントを送る日ですからね。」

「え、そうなんですか?日本とは違うんですね…驚きました。」

「では、ついでにもう一つ驚いて下さい。」



何をかと仕事をしていた手を止め鬼灯を見ると小綺麗な箱を渡された。何ですかと聞くも目で開けてみろと催促されてしまったので開けるのを躊躇するほど綺麗なラッピングを解いていく、こうゆう綺麗な物を自分の手で解くのは変な緊張をしてしまう。



「万年筆…、ですか?」

「貴女は私の助手ですからね、少しは良い物を使いなさい。夢がないでしょう、上役が安物を使っていては。」



綺麗な白地の持ち手に金のペン先には雪の結晶が彫られていてシンプルながらに美しい。程よい重量感に高価な物だと分かる、品の良い雰囲気を纏ったそれは使うには勿体無い程で見とれてしまう。本当に、美しい。



「こ、これ高いんじゃ!!」

「ですから、これくらいの物を一つくらい持っていなさいと言ってるんです。」

「そ、そんな頂けないですよ!こんな高価な物!!」

「でしたらバレンタインのチョコをください。もう買ってあるのでしょう?交換なら賄賂にもならないでしょう。」

「え、…えぇ。あります、けど…こんな市販のじゃ……。」



引き出しにしまっていたチョコをおずおずと出すも義理だしと思って本当に見た目の好みで買ってしまったのであんな高価な物を見た後ではとても申し訳ない。渡しづらいとおろおろしていると奪い取るように取られてしまって更に挙動不審になる。上司に渡すものなのでそんなに安い物ではないがこんな素敵な贈り物には到底釣り合わない。



「あ、あの……!」

「美味しいですよ、ありがとうございます。」

「う、うぅ……こちらこそ本当に、本当にありがとうございます!大切にします!」



さっさと包装をといてチョコを食べられてしまっては観念するしかなく、嬉しさや申し訳無さに押し潰されそうになりながらも心の底から感謝する。
その姿を見ながら普段より少し穏やかな顔をした鬼灯が最後の一粒を口に放り込んだ。






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