彼はこのカルデアにやってきたサーヴァントたちのなかでも極めて例外的な存在であった。
彼は、他のサーヴァントたちのように私の呼び掛けにこたえて姿をあらわしたのではない。
彼の方が私を呼んだのだ。
ただ崩壊を辿るばかりの薄い世界で、唯一私を見つけ出して、自らの意思でここへ来た。本人がそれを認めるかどうかはともかく、私のほうはそう思っている。

「どうしたマスター。……眠いのか」
「すこし、疲れただけだよ」

できることのすべてをやりきった。最善を尽くした。返ってきた結果がどうであれ、私にできることなど、もうなにもないのに。それでも彼らは私に期待をする。
彼らのその信頼を嬉しく、心強く思う半面、牢獄のなかで足枷をつけられているかのような窮屈さを感じる瞬間がある。なにも考えたくないと自暴自棄になる夜もある。そういうときは大抵、アヴェンジャーがふらりとやってきて、私の体に毛布をかける。
その瞬間だけは、背中に縛り付けられた重厚なものから解放された気になれた。ある意味で、他のどの英霊よりも人らしい彼はそばにいると安心する。

それでも彼のすることを認めることはできない。
エドモン・ダンテスの持つ思考を、私は匙一杯分も理解することができない。
彼がいつもなにを考えていて、なにを好み、なにを嫌い、聖杯に対してなにを思うのか。他のサーヴァントたちとも繰り返した質問に対する彼の返答。私がそれに同意したことは一度もない。
私を惑わすこともあれど、諭すこともある。愚かだと蔑むこともあれば、健闘したじゃないかと労うこともある。
掴み所がないと思わされるのは、英霊だからか。そういう男を好きになってしまったのなら、最後はすべてが忘却に帰す定めも私は辛うじて受け入れなければならない。
ただ一騎のサーヴァントとして側にいてくれさえすればそれでよかった。特別なものを求めるつもりはなかった。過度な幸せというものは、時間差で毒に変質する。
それならいっそ、なにもはじまらなければいいと思った。私は、それを幸せにしようと決めたのだ。

それなのに、近頃の彼、エドモン・ダンテスは私のことを愛しいなどと言う。私のことが大切だとため息をつく。
それがどんなにおそろしく、残酷なことであるか。彼は十分に知っているはずなのに、言葉にせずにはいられないとばかりにそれを私に捧げるのだ。

「なぁ、マスター。オレたちは幸せだなあ……」

ソファーに沈んだ私の体を、アヴェンジャーが抱き上げる。彼の言葉に、私は嘘を見抜かれた罪人のようにぎくりと背中を震わせた。
なにもかもを憎む彼に似つかわしくない言葉に、動揺を隠せなかった。

彼もまた、私になにかを期待するサーヴァントでしかないのだとしたら。
そうだとしたら、私は。

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