田噛くんとの生活は、慣れてしまえば存外、快適なものだった。
彼は衣食住を共にしながら、必要以上に私に踏み込むことはしなかったし、でもだからといって私のことを無視したりもしなかったので一緒にいてとても気が楽だったのだ。
朝は仕事をするために特務室へむかい、夜に帰ってくる。 近頃の私の日常はそんな彼を送り、出迎え、眠るまでの時間を共にすることを中心にまわっていた。 平腹くんがいなくなってからは最低限の外出しかすることがなくなっていたが、いまではお腹をすかせて帰ってくる田噛くんに差し出す料理をつくるための買い出しへと毎日商店に足をむけるようになった。
私がすこしでもまともな生活に戻れているとするならば、それはまちがいなく彼のおかげだ。


「帰ったぞ」
「あ、おかえりなさい」
「腹減った……」
「ごめん、もう少しかかりそうだから先にお風呂に入ってきて」
「おう」

もちろん、恋仲でもない男女が生活を共にするのはそれなりに互いへの配慮の心を持つ必要がある。

「一緒に入るか?」
「は、はいりません!」

と、言いたいところだが生憎そんなものははじめの数ヶ月のうちに綺麗さっぱりなくなってしまった。
にやり、といじめっこのような笑みを浮かべて言葉を放った彼にバスタオルを投げつける。
彼と暮らすようになってもうすぐ二年になるが、私たちが男女としてどうこうなったことは一度もなかった。言うまでもなく、私は平腹くんのことが好きなままであったし、彼もそれを知っているから私のことをそういった対象として見ようとしない。
姉弟のような関係(彼は兄妹だとかたくなに主張するが)だと思ってもらえればいい。

田噛くんは頭がいいのにわりと楽観的で、平腹くんがいなくなってしまったことに関して、「まぁ、そのうち帰ってくるだろ」と、たいして心配はしていないようだった。平腹くんに頼まれたとおり、私との生活を律儀に続けるあたり、平腹くんのことを信頼しているようでもある。
はじめはわりと謎に包まれていた彼の実態も、近頃はだんだん掴めてきた。
頭はいいのにめんどくさがり、けれど、だらしがないというのとはすこし違っている。ドライなようで案外情熱的。ギターを弾くのが趣味というのもそういうところが反映されているのかもしれない。
男性のわりには細身だが、筋肉がついていないわけではなく、固くなったジャムの蓋をいつも開けてくれる。

なんとか夕飯の準備を整えて、エプロンの紐を解くと、いつのまにかお風呂からあがってきたらしい田噛くんがテーブルのうえのオムライスをじっと見つめていた。

「なんでパンツしかはいてないの……」
「服をきるのがめんどくせぇ」

前言撤回だ。やっぱりだらしがないやつだった。


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